(以前、「管理委託費の増額交渉」についてテーマのリクエストをもらったので取り上げました!)
大手管理会社では管理委託費の値上げ要請が相次ぎ、交渉が不調に終われば管理そのものを辞退する強気な姿勢も見せるようになりました。
この動きは全国的に広がっているようです。
ところで「管理委託費の値上げ」と一括りに言いますが、値上げの対象になっている「管理委託費の内訳」はどうなっているでしょうか?
何を値上げしてほしいのか、値上げの背景は何なのか、妥当な理由は説明されているのか、確認する必要があります。
管理委託費の内訳を「3つ」に分類して、値上げの理由と確認ポイントを解説してみました。
※分類方法は当サイト独自です。
- 管理委託費の分類
- 会社経費系・・・・・事務管理費|管理報酬
- 人件費系・・・・・・管理員業務|日常清掃業務
- 請負業務費系・・・・定期清掃業務|設備点検業務
1.会社経費系
表現は会社によってさまざまで、「事務管理費」「管理報酬」、あるいは1本にまとめて単に「事務管理費」と呼ぶ場合もあります。
逆に、もっと細分化している場合もあります。
表現は違っても、フロントの担当者経費、事務スタッフ経費、事務所の維持費、会社の利益などです。
会社経費系の値上げの中身に関しては、後述します。
2.人件費系
現場スタッフの「管理員業務費(管理員)」「日常清掃業務費(清掃員)」を人件費系とします。
最低賃金や社会保険料等の値上げが直接反映される項目なので、値上げの背景は広く認知されており、最も理解を得られやすい項目だと思います。
最低賃金が10%上昇していれば、給与分10% + α(社保・諸経費等)は妥当な範囲だろう、というように分かりやすいです。
何年前から据え置きになっているか調べ、その間に最低賃金が何%アップしたか比較してみましょう。
3.請負業務費系
「請負業務」の範囲が幅広いので、更に「定期清掃業務」「設備点検」の2つに分けます。
3-1)定期清掃業務費
私だけのイメージかもしれませんが、最も安く抑えられがちな項目ではないでしょうか。
定期清掃業務は、グループ会社や協力会社に再委託することが多いと思います。
問題は、清掃会社は個人事業主・家族経営も含めた小規模な会社が多く、安い価格で請け負ったり(薄利多売)、昔の価格のままずっと値上げしていないケースが散見されることです。
実際に経験した例
元々「Pタイル」だった廊下を「ノースリップシート(凸凹の滑り止め付き)」に張り替えたのに、定期清掃費は何年間も据え置きになっているマンションがありました。
ノースリップは文字通り滑らないので安全ですが、日常清掃も定期清掃も大変な材質です。
私のところに管理会社変更の話が来て、積算してみたところ、定期清掃費は現行価格の2倍くらいになってしまったようです。
総会でその点について質問を受けました。
なんで定期清掃費だけこんなに高いの?
床の材質が変わっているのに、価格がずっと据え置きだったんじゃないでしょうか?今までが安すぎたと思います。
ノースリップの材質だと手間も掛かるので、私どもの清掃業者ではこの見積もりが通常の価格なんです。
「管理会社変更」という転機だから見直しが出来ましたが、同じような「据え置き」のケースはたくさんあるでしょう。(本来は、フロントが適切なタイミングで価格改定を提案すべきなのですが)
住民さんの立場からすると、床の材質の違いによる積算単価なんて分からなくて当然ですし、定期清掃は意識されにくいのかな、安くても当たり前なのかな…と思った出来事でした。
安さだけで勝負はできない
そういえば役所関係の入札で、清掃専門会社が破格に安い単価で入札することがあります。仕事を継続して従業員の雇用を維持しなければならないらいく…。非常に競争が厳しい業界なんですね。
でも管理会社は清掃専門ではありませんし、価格だけが評価の基準にされるなら、契約から外していただかなければなりません。
そうしないと協力会社さんの利益を守れませんし、元請け会社にはその責任があります。
3-2)設備点検業務費
設備の点検のなかでも、法定点検(絶対やる)と任意点検(やった方がいい)に分かれます。
- 法定点検・・・非常用照明、エレベーター、受水槽清掃、消防設備など。
- 任意点検・・・建物目視点検、自動ドア点検、ボイラー点検など。
点検費用の内訳としては、技術者の人件費・技術料の割合が高いです。
法定点検は、法改正があると点検項目が変わったり、時間がかかるようになったり、高価な検査機器を準備しなければいけなかったりします。
「法改正」という明確な根拠があると、値上げを提示しやすいですね。
裏を返せば、何もなければ同じ金額のままになりがちです。(定期清掃と同じ)
値上げが難しい会社経費(自分調べ)
ダントツで値上げしづらいのは、最初に挙げた「会社経費系」でしょう。
その中でも細分化すれば「管理報酬」ですね。
「報酬」という言葉が、いかにも「もっと儲けたい」と言っている感じがしません?
分かります。だから私たちも言い出しにくいです。
なぜ値上げが必要なのか?
理由は単純で「他の物件と比べて安いから」に尽きると思います。
そんなのは会社の都合でしょ!
こういう意見も当然、出てきます。
この意見に対してどう対処するかは、各社の経営方針です。
そして、管理組合が値上げ要請を受け入れるかどうかは、もちろん財政事情もありますが、日ごろのフロントと役員の信頼関係と評価に依存すると思います。
管理会社の経費の適正価格って?
会社経費系は、戸あたり単価で積算します。
たとえば 100戸×1,500円=15,000円/月 というように計算方法は単純です。
ここから先は個人的な経験に基づく話です。
2000年~2010年頃は低価格の競争
1戸あたりの【事務管理費+管理報酬】は、戸数や管理組合の事情(決算が複雑とか賃貸が多いとか手間がかかるとか色々)によって変動します。
でも単価の決め方は割とざっくりです。(厳密に計算して単価を決める会社もあるんでしょうかね?)
10年以上前の単価はこれくらいのイメージです。
- 独立系・・・・・・・・・・ 500円~ 700円/戸
- デベロッパー系・・・・・・1,500円~2,000円/戸 以上
これだけ価格差が大きいと、当然デベロッパー系は独立系のリプレース営業の餌食になりました。
きっと「ボッタくっている」とか一方的に好き放題言われて、悔しい思いをしたこともあるはずです。
時にはデベロッパー系も大幅に値下げして、対抗するケースも見られました。
ここ数年、低価格競争の流れが転換しています
以前の独立系は「とにかく安くていいから何でも獲りにいけ」でしたが、そのやり方にも限界が出始めたのでしょう。
想像の域を出ませんが、労働環境悪化・管理品質低下・利益率低下などの副作用が出始めたのか、価格競争から降り始めました。
戸あたり1,000円~1,500円を下回る価格提示なんて、ほとんどなくなったと思います。
デベロッパー系も「値上げに応じないなら管理を辞退する」という流れがあります。(ニュースにもなっているので有名な話ですね)
独立系もデベロッパー系も強気の値上げ姿勢を打ち出すようになりました。
また管理会社の合併・子会社化・事業の撤退も珍しいことではなく、会社そのものが淘汰され始めています。
こういう流れだから、適正な価格に値上げるのも当然の流れ…と言いたいところですが、値上げを会社の利益にするだけではなく、業界の改善(主に労働環境の改善)に結び付けなければ、フロントが一生懸命値上げ交渉した努力の意味が報われません。
既に大手では、時間外労働を制限するなどの取り組みも進んでいて、良い方向に進んでいるのは間違いなく、この流れがどんどん広がってほしいです。
気になるのは、隙間を狙ったように新興の管理会社が登場して、以前のような廉価な提案をするケースも一部で起きているようです。
せっかく業界の環境が変わるチャンスだと思うのですが・・・・
値上げ提案の手法について(まとめ)
基本的なことの確認ですが、管理委託費の値上げは「総会案件」です。
ということは、理事会は承認している前提です。
ということは、管理会社+理事会の共同提案、もっといえば「理事会から組合員への提案」です。
そう考えてみると、管理会社としては理事会が組合員に説明しやすい材料や理由を用意する必要があると思うんです。
今までがお得だった(安かった)ことを説明しつつ、新たに付加価値を提供する
単純に「値上げしてください」で押すのもアリですけれど、組合員に説明しやすい材料があるに越したことはないですよね。
私が実践しているのは、
- 今までの価格が安くてお得だったことを理解していただくこと。
- 値上げと共に、管理サービスを向上して付加価値を付けること。
イメージにするとこんな感じ!
サービスの向上と言っても、ちょっとしたことでもいいんです。
管理委託費の中に、たとえば議事録や議案書のコピー代を含むとか、管理室の電話代を含むとか、管理室にパソコン・インターネット環境を用意するとか。
値上げするけど提供サービスも向上する、「付加価値の提案」ということで交渉に臨みます。
もしかしたら誤魔化しのように映るかもしれません。
大事なのは、一方的に要求を押し付けるのではなく、双方ができるだけ歩み寄って、納得して合意に至ることだと思います!
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