電力会社の選択は自由~アンペア変更は要注意

契約アンペア

マンションでも電力会社は自由に選べる

電力会社を自由に選択できるようになって久しいので、自分に合った電力会社に切り替えている方も多いと思います。

専有部の電力会社の選択に関して、管理組合では特に制限や申請を求めないのが一般的な対応です。

住民さん
住民さん

電力会社を変えたいんですけど、個人で申し込んでいいんですか?

はい、大丈夫ですよ。

ただし、管理組合がお部屋の電気代も請求している場合は「高圧一括受電方式」のため、電力会社の変更は出来ません。

電力会社の変更は自由。では契約アンペアの変更は?

電力の需要は年々伸び続けていましたが、2011年の東日本大震災をきっかけに省エネ・節電の意識が高まり、一般家庭の消費電力は減少傾向にあります(電気事業連合会HPより)。

とはいえ、古いマンションでは契約アンペアが低く設定されているため、電化製品の増加・生活スタイルの変化(ガスからIHに変えたいなど)に対応できず、契約アンペアをアップしたいという要望もよく聞きます。

ドライヤーと電子レンジを一緒に使うとブレーカーが落ちて不便なんです。

アンペアの変更を申し込んだら、管理会社に問い合わせするように言われたんですが…

管理組合の許可が必要なんですが、認められない可能性が高いです。

1件だけなら問題なくても、件数が増えると電力使用量もどんどん増えて、共用部の配線が持たないからです。
最悪のケースとして火災・停電につながる恐れもあります。

「基本料金を節約したい」ということで契約アンペアを下げるのは問題ありませんが、上げる場合には共用部の配線の許容量に影響するため、制限している管理組合が大半だと思います。

築年数の古いマンションの問題点

最近の電力会社は、契約アンペアを変更したいと申し込みがあれば「管理組合か管理会社に許可を取るように」と説明してくれるようです。

といってもそれが100%徹底されているのか分からず、知らない内に変更されるケースが無いとは言い切れません。

もし今は無いとしても、昔は許可もなく自由にアンペアを増やしているケースがあり、早い者勝ちのように変更しているとすれば、配線の限界が近づいているかもしれません。

全体の契約状況が把握できず、安全が確認できない状況になっている可能性があります。

長期修繕計画の電気配線等の更新予定は?

電気の配線設備が現在の生活スタイルに対応できないとすれば、「グレードアップ工事」として配線設備等を入れ替えて、共用部のキャパシティを拡張する方法が考えられます。

国土交通省の「長期修繕計画標準様式(※PDFが開きます)」に電気設備の「幹線の張り替え」の項目がありますが、設計事務所等が作成する長期修繕計画表には、その予算が計上されていないケースも多く見られます。

私がこれまで担当した物件でも、様々な設計事務所が長期修繕計画を作成しましたが「幹線の張り替え」を予算計上している例はありませんでした。

幹線設備の修繕(取替)の標準周期は30年ごとに設定されていますが、実際にそんなに短い周期で幹線全てを入れ替えることは無いです。

屋外の分電盤や配線など劣化しやすい箇所や、点検で指摘された場合など、部分的に交換しています。

ましてや容量アップが目的なら「性能向上(グレードアップ)」という位置付けですから、特別に要望しなければ長期修繕計画に入ることはありません。

建物の老朽化に加え、いずれ入居者の高齢化・世代交代が問題になります。
若い世代が住みやすいよう、家電を使えるキャパシティを確保するのも、マンションの資産価値・管理組合の活性化のため重要な視点になると思います。

現状がどうなっているのか調べたい

住民さん
住民さん

マンション全体で、アンペアを上げている部屋はどれくらいあって、あとどれ位の余裕が残っているのかな?

今の設備のままで契約アンペアを上げることが出来るのかどうか、各戸の契約の状況、利用状況、配線の現状調査が必要になるでしょう。

どれくらいひっ迫しているのか調べれば、緊急度を把握したり、計画を建てる判断材料になります。

Ⅰ 各戸の契約状況の調査

管理組合で入居者にアンペア数を答えてもらって、標準よりアップさせている部屋がどれくらいあるのか調査します。
同時に、アップしたい・電化したいなどの要望を把握するのもいいでしょう。

ひと昔前なら、室内の「アンペアブレーカー(契約ブレーカー)」を見れば「〇〇A」という表示があるので簡単に確認できました。
しかし「スマートメーター」に交換済みなら、アンペアブレーカーを見ても契約アンペアを判断することが出来なくなっています。(参考:LOOPでんきのスマートメーター解説ページ

したがって各自で請求書などを確認してもらうしか、調べる手段がありません。

この種のアンケート調査は回答率が低いです。

更に全員の契約アンペアが分かったとしても、実際に流れる電流の値と等しいわけではないので、あまりこだわり過ぎなくても良いと思います。

Ⅱ 実際の電力使用量の調査

共用部の配線の系統ごとに測定器を取り付けて、電力使用量を時間別に細かく測定して記録します。
エアコンは季節によって、IHなどは時間帯によって電気の使用量が大きく変化するため、1週間程度、24時間測定しなければ傾向を把握できません。(夏や冬など、エアコンを多く使う時期が調査に適しています)

民間の調査会社に依頼します。

建物の規模・配線の系統数・調査期間によって異なりますが、数十万円の調査費が掛かるでしょう。

普通の電気工事店ではなく、専門のノウハウを持っていることが必要です。(参考:株式会社エスコ

もちろん、どんなに詳細に測定しても、あくまで一定期間を切り取ったデータですから完璧に現状を把握できるわけではありません。
「調査した期間はこういう結果」ということが分かるだけです。

しかし竣工図の配線と照らし合わせることで、電力の使用量に対して許容量がどの程度ひっ迫しているか、改修の優先度が高い系統はどれなのか、全く何も分からない状況から前進して議論を始めるために必要な工程だと思います。

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測定データがあれば議論の基礎になる

Ⅲ.調査結果に基づく対策の検討

ひっ迫の度合いが把握できたら、現状と契約アンペアを上げないように周知して、幹線の入れ替えが必要かどうかの検討を開始します。

幹線の入れ替えは大がかりな工事で、正確な見積もりをするには詳細な調査や設計が必要ですから、この段階では概算の見積もりでいいと思います。
1戸当たりに換算すれば、ざっくり15~20万円位は必要かなという感じです。
系統が複雑に分かれていたり、配線ルートに点検口が無いなど、条件次第で費用は高額になります。

一度に全体を入れ替えるのが難しければ、予算と系統別の必要度に応じて優先順位を付け、系統を分割して施工するという選択肢もあります。

年度を分けて施工する計画なら、後回しになる系統から「不公平」という意見も出るかもしれませんし、工事費も割高になります。

資金計画も十分に練って、慎重に話し合って結論を出すべきです。

最後に

幹線の入れ替えはグレードアップの意味合いが強く費用も多額になるため、調査・計画したところでストップしてしまい、事例が少ないです。

しかしマンションを建て替えるのではなく、延命・再生する道を考える場合、電力供給のキャパシティを増強することは世代交代のための重要な要素になると思います。

  • 電力会社は自由にマンションでも選べる
  • アンペアの変更は共用部の配線の許容量に影響するため、自由にアップすることは出来ない
  • 昔は管理組合の許可も無いまま容量アップする事例も多く、現状を把握出来ていないマンションが存在している
  • 専門業者に電力使用状況を調査を依頼し、ひっ迫しているかどうか把握する
  • 全体一括、または系統別に幹線入れ替えを検討する(長期修繕計画に入れる)
  • 電力供給のキャパシティ拡張は、マンションを長く使うたに必要なインフラ整備のひとつ

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