保険の話~「個人賠償責任保険」は誰のため?管理組合の契約から外すのが難しい理由と対策

賠償保険

前回の記事で書いた火災保険は、全ての所有者が入らなければならない保険でした。

今回は、利用する機会が最も多いであろう個人賠償責任保険です。

生協など保険のチラシ、自動車保険のオプションなどで目にしたこともあるでしょうか。

文字通り「個人(が負ってしまった)賠償責任(を補償する)保険」です。

そして管理組合が加入しているマンション総合保険に「特約」でセットされていることが多いです。

本来なら管理組合の保険にセットする必要はない

住民さん
住民さん

管理組合の火災保険では個人の住宅を補償できないのに、なぜ個人の賠償責任保険には加入しているの?

当然の疑問ですが、先に結論です。

管理組合が、個人賠償責任保険に入る必要はありません。

入居者(注:所有者ではなく賃貸も含む「入居者」)が、自分で加入すればいいんです。

それなのに、多くの管理組合では個人賠償責任保険に加入しています。

なぜ、管理組合は個人の責任まで補償する保険に入るのでしょうか?

これも先に結論を言うと、1人でも加入しない人がいると、大きなトラブルに発展する恐れがあって、被害者の保護、マンション内の安全を第一に考えるためです。

被害者の保護のために入っている保険です

個人賠償責任保険って何を補償する保険?

「個人が賠償責任を負った時に補償する」というのは、具体的にどういうことでしょうか。

生協の共済のページに分かりやすくまとめられていますが、マンション内で起きる代表的な事故を挙げるとすれば

  1. 下の階に水を漏らした
  2. 共用部のガラスなどに物をぶつけて壊した

これが1位・2位ではないでしょうか。

いずれも自分以外の第三者に損害を与えて、賠償する責任を負ったわけです。

本来ならば自腹で弁償しなければならないのに、管理組合の保険で支払うことが可能です。

住民さん
住民さん

管理組合の保険で補償してくれるなら、自分で保険に入る必要ないじゃない!
管理組合で入った方がいい!

こう考える人がいるのは当然のことです。

個人賠償責任保険は、マンション外で起きた事故にも使うことが出来ます。
例えば、友達の家で花瓶を割ってしまったとか・・・・。
しかし実際には、そのようなケースの報告があっても、管理組合が保険の使用を許可しないはずです。
あくまでマンション内の事故、トラブルを円滑に解決することが目的なので、個人賠償責任保険はそれぞれ加入するべきと言えます。

保険の情勢はここ数年で大きく変わっています

以前は、管理組合の保険に個人賠償責任保険をセットするのが当たり前でした。

問題視する必要がないくらい保険料が安かったからです。

しかしそれも今は過去の話になりました。

ここ10年ほどの間に保険料はうなぎ上り。

管理組合の収支を圧迫するほどになっています。

保険料が上がる理由は、大規模な自然災害の発生、建物老朽化による事故の増加などとされています。

保険料全体が値上がりしていますが、特に個人賠償責任保険の値上がりは大きな負担になっています。

また、事故が起きて保険金を請求すると一定期間事故の履歴が残り、次の契約更新時に保険料がまた値上がりします。

住民さん
住民さん

個人賠償責任保険は解約したら?

管理費を値上げしなきゃいけなくなるし・・・

個人で入れば、年間の保険料は1,000円ちょっとでしょ?

こういう意見も多く聞くようになりました。

たしかに個人で加入した方が、管理組合で入るよりずっと保険料が安いです。

そう簡単に個人賠償責任保険は止められない

火災保険でも同じ話をしましたが、事故が起きた時に困るのは?

被害者です。

大きな水漏れの場合、室内が水浸しになって、何日も住めなくなることもあります。

もちろん、突然多額の賠償責任を負ってしまう加害者も大変なんですけど、やっぱり保護しなければならないのは、落ち度のない被害者でしょう。

誰もが加害者・被害者になる可能性があります

もし加害者が保険に入っていなかったら?

被害者
被害者

加害者は保険に入っているのかな…?

保険に入っていなかったら弁償してくれるのかな…?

どうやって請求すればいいのかな…?

どこまでの費用を弁償してくれるのかな…?

直接交渉するのは嫌だな…

加害者が保険に入っていればいいのですが、もし入っていなかったら…

基本的な関係は 加害者 VS 被害者 なので、当事者同士で解決しなければなりません

管理会社や管理組合は間に入りませんし、入れません。

どちらか一方の味方をして、交渉するのは弁護士の領域です。

想定される大きなトラブル

もし加害者が無保険なら、被害者の財産的・心理的負担が非常に大きいです。

被害額は数百万円に上ることも珍しくなく、加害者は簡単に弁償できません。

また、被害者が求める被害額は、実際の損害以上に膨らむことがあります(過剰な請求)。

こうなってくると感情の衝突に発展し、話し合いでの解決は困難です。

これが「大きなトラブル」です。

今のところ被害者側が自衛するための保険も無さそうで、加害者が個人賠償責任保険に入っていなければ補償を受けることが出来ません。

冒頭で「管理組合では入る必要なし」と書いたけど

戸数が多いと、全入居者が加入していることを確認したり、未加入者に加入させることが難しいです。

所有者ではなく入居者(賃借人を含む)全員が加入しなければならないのが、難しい理由のひとつです。

また、保険が更新されているかの確認、入居者の入れ替わり時の確認など、管理がとても煩雑です

入居者全員の加入が確実ではない以上、マンション内のトラブルを避けるための必要コストとして割り切って、管理組合で加入せざるを得ない・・・・という結論に落ち着きます。

比較的戸数の少ない管理組合では、加入していないケースも見られます

管理組合の契約から除外する方法

難しいといっても「個人で加入する」のが個人賠償責任保険の本質です。

なんとか契約から外すことはできないでしょうか?

実際に契約から外した手順をご紹介します。1年越しの事業でかなり大変でした。

  1. 説明文を配布して、情報と問題意識を共有する。解約したい意思を伝える。
  2. 個人賠償責任保険に入っているかアンケート調査する。賃貸の外部オーナーにも、賃貸借契約に賠償保険が含まれていないか確認する。100%回収を目指す。
  3. 集計結果を周知する
  4. 総会で個人賠償責任保険の解約を決議する。
  5. 個人賠償責任保険が無くなること、期限までに各自で加入するよう周知する。
  6. 加入したことを確認するため、証券や申込書のコピー等を提出してもらう
  7. 保険会社に解約の連絡をする

一部の手順は省略する場合もありますし、100%回答を絶対条件にすると、先に進めなくなってしまいます。

その代わりに念押しで、管理規約等に「入居者は補償額〇〇〇〇万円以上の個人賠償責任保険に加入し、入居時にその証券の写しを管理組合に提出すること」「入居中は継続して加入すること」など定めるのも一つの方法です。

そのような規約が法的に強制力を持つのか疑問は残りますが、注意喚起や抑止力として必要でしょう。

アンケートすら返さない割合が高いようでは難しい

最低でも、70~80%以上の回答率が欲しいですね。

返事すら出さない=無関心層が多い場合は、いくら総会で決議しても、結局保険に加入せず、無保険世帯の割合が高くなってしまいます。

それは、被害者が泣く思いをする危険が高まることを意味します。

まとめ

  • 個人賠償責任保険は、年数と共に値上がりする。
  • 保険を使うとより一層値上がりする。
  • 解約するには入居者の協力が必要。いきなり解約ではなく、手順を踏む。
  • 無保険者の割合が高いと、万が一の事故のときに被害者が大変な思いをする。
  • 被害者のセーフティーネットとして、保険料を必要コストと割り切る考えもアリ。
最低限所得保障・ベーシックインカムのイラスト
被害者を守るコストという考えもあります

折衷案として

解約したいけど解約できない。でも無条件で管理組合の保険を使わせたくない。
そう考える場合の折衷案です。

  • 管理組合で個人賠償責任保険に加入する。
  • 補償はなるべく少額に、段階的に減らしていく。(保険以上の被害が出たら加害者の負担)
  • 原則として加害者本人の保険を優先的に適用させる。
  • 未加入者の場合でも保険を使っても良いかどうか、その都度、理事会の判断で決定する
  • 組合の保険を使う場合、加害者に5~10万円の免責金を請求する

このように間接的な圧力をかけて、自分で保険に入るよう促す例もあります。

全員が加入するまでの過渡期のような措置で、段階的に解約に向けて進めていきます。

個人賠償責任保険の解約は、簡単なことではありません。
しかし、管理費の値上げ問題に直面するなら、選択肢に加えて検討してみてはいかがでしょうか。

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