「自宅の玄関ドアは共用部分だから勝手に交換できない」ということは知られていると思いますが、1枚のドアでも表と裏側で共用部分と専有部分が区別されていたり、部品ごとに維持管理の責任が分かれていて、細かく区別できる人はそう多くありません。
ドアの修理とか部品の交換とか、管理する責任はどういう分け方になってるのかよく分からないな?
毎日使うドアなのに、自分の物のようでそうじゃない。分かりづらいのも当然です。
マンションの玄関ドアの維持管理と、交換の方法について解説します!
最新の長期修繕計画には「玄関ドアの交換」が入っている
昔の長期修繕計画には「玄関ドアの交換」は入っていませんでした。
でも今の長期修繕計画には、入っていて、一斉交換は修繕積立金で行うのが普通です。
ドアの耐用年数は40年くらいですから、最近になって問題が生じる事例が多くなり、長期修繕計画に入れるようになったんだろうと想像できます。
玄関ドアは、管理組合が交換する設備に含まれています。
つまり交換の財源は、修繕積立金です!
全戸を一斉に交換するには多額の費用がかかるので、資金計画に大きな影響を与えるので、長期修繕計画から漏れないように注意したいです。
規約上の玄関ドアの位置づけ
玄関ドアは「共用部分の専用使用部分」であり、「専有部分」でもあります
「なにを言っているのかワケが分からない」と思われるかもしれませんので、表にまとめてみました。
分 類 | 共用部分 (専用使用部分) | 専有部分 |
---|---|---|
対 象 | ドア本体 「外側」の塗装 ドアノブ 丁番・クローザー ドアチェーン 防犯用覗き窓 | カギ 「内側」の塗装 |
修理費用 | 個人負担 | 個人負担 |
修理方法 | 原則組合に委任 | 個人で自由にできる |
交 換 | 組合が計画的に実施 | 個人で自由にできる |
このように、1枚のドアでも部位によって共用部分(専用使用部分)と専有部分に分かれています。
でもどちらの区分にしても、本体を交換する場合以外は個人負担で維持・管理するのが基本ルールです。
言い方を変えれば、日常的に使っていて壊れるもの、自然の劣化で壊れるものは「個人負担」、管理組合の費用で実施するのは丸ごと一斉交換のときだけということです。
普段全然使っていないドアチェーンが壊れたんだけど。
私に責任はないんじゃない?
なんで費用負担しなきゃいけないの?
自然の経年劣化ですから、個人負担で交換することになります。
腑に落ちない気持ちも分かりますが…
規約に細かく書いていない
でも規約をよく見ても、「ドアクローザー」とか「チェーン」とか「防犯用覗き窓」とか、細かく明記されていないのではないでしょうか。
だから費用負担について疑問も起こるし、対応を間違える原因になります。
扉が重くて歪むケースが多いため、扉の脱着や調整はものすごく繊細な作業で、工賃が高くなるのも仕方がないと思えます。
しかも、ドアと枠の隙間に余裕がないと、スムーズに閉まるよう調整するのは不可能に近いようです。
オーとクローザーがどんなものか、アクローザーのメーカーで確認できますが、最近のマンションの玄関ドアで使われることは無いでしょう。古いマンションではよくあります。
このオートクローザーの修理費も、規約通りなら個人負担です。
でも、上で述べたように作業がとても大変なので、部品代より工賃が高いです。
中には「あまりに高額で個人負担は酷だ」という理由で、管理組合が修理費用を負担している事例もあります。
問題になっていないものの、規約で考えれば本当は間違った対応だろうと思います。
ただし判例では例外を認めていて「個々の修理案件ごとに総会決議があれば管理組合で費用を負担することは可能」とされています。
玄関ドアの劣化とは
マンションの劣化には「物理的劣化」「機能的劣化」「社会的劣化」の三種類があると言われます。
これを玄関ドアに当てはめて分類してみました。
この三種類の劣化のいずれか、あるいは2つ以上に当てはまることで、交換の動機付けとなります。
劣化の種類 | 劣化の原因 | 劣化の状態(例) |
---|---|---|
物理的 劣化 | 経年による劣化、故障 | ・丁番が壊れて開閉速度が速く勢いよく閉まる ・途中で止まってしまう ・扉の重さでゆがみが生じ、枠や床に擦る |
機能的 劣化 | 時代遅れになって価値が下がった | ・丁番とクローザーが一体型で、開閉速度の調整が出来ない ・パッキンがない(断熱・遮音性能が低い) ・鍵穴が1つ(防犯性能が低い) ・ドアチェーンは切断が容易(防犯性能が低い) |
社会的 劣化 | 入居者の生活スタイルに合わなくなった | ・ドアノブが丸い玉型で、握力の弱い人は使いづらい ・扉の中に断熱・防火のための砂が入っているため重くて開閉が大変 |
交換時期はいつごろ?
長期修繕計画では、玄関ドアの交換周期は36年が標準とされています。
もちろん状態によって異なるのであくまで“目安”です。
交換時期を判断する基準は「物理的劣化」が増え、住民から苦情や要望が出てからでもよいと思いますが、それでも35~45年くらいで不具合が出始めるでしょう。
勢いよく閉まるとか、自動で閉まらなくなったとか、鍵が閉まりづらいとか、隙間風が入るとか、いろいろな不具合が出てきます。
でも毎日使うものだから使い慣れてしまって、不便を不便と感じずて当たり前になる人も多いのです。
自動で閉まらないのが当たり前だと思って、手で閉めていました。
だからアンケートを取っても「意外に不具合の件数が少ない??」という結果になるかもしれません。
交換の時期は年数で機械的に区切るものではなく、住民が交換したいと思うか、その気持ちで判断するものだと思います。
だから交換の時期を決めるのが難しいですが、計画に入れて予算は確保しておかないと、急に多額の費用がかかるので要注意です。
特に築35~45年は、エレベーター・給排水・大規模修繕など重なりやすく、資金繰りが大変な時期です。
ドアの交換はいくらくらい掛かる?
「マンション管理センター」の長期修繕計画によれば、1戸あたりのドア交換費用を161,500円に設定しています。
私の経験上でも、扉の形・オプション・見積もり業者によって異なるものの、1戸あたり150,000円~200,000円くらいなので、だいたい実情に近い単価だと思いました。
これを戸数で掛けると、全体の工事金額になります。
どういうことかと言うと、専有面積が小さいと集まる積立金は少なくなるのに、1戸あたりの工事費は同じなので、結果的に「割高」になります。
給排水管、インターホンなど、全戸にある設備を更新する場合は同じことが言えます。
見積もり金額が変わる要素にはどんなものがある?
ドア1枚あたり15~20万円と書きましたが、もっと安くなったり、高くなることもあります。
見積もり金額が変わる要素はいくつかありますので、代表的なものを4点ご紹介します。
- 扉の表面のデザインや材質
- ドアノブの形状
- 1ドア2ロック
- カギの種類
1.扉の表面のデザインや材質
色々選べるので、サンプルを何種類か取り寄せてアンケートで決めたりします。
高い素材も選べるものの、ここはあまり費用をかけるところではなく、標準価格の材質を選ぶことが多いです。
2.ドアノブの形状
L字型の「レバーハンドル」と、押したり引いたりするだけで楽に開けられる「プッシュプル」があります。
レバーハンドルの方が安いですけど、最近のマンションはみんなプッシュプルです。
プレゼンで実物を見て、触れてみたら、プッシュプルを選びたくなるみたいです。
色んなドアノブがYKKのホームページで紹介されていますので参考まで。
3.1ドア2ロック
1つのドアに2つのシリンダーを付けて、同じ鍵で2つとも解錠できます。
面倒ですが防犯性能は高いです。
プッシュプルの場合は標準で2ロック付いてきます。
レバーハンドルの場合、2ロック目はオプション工事で、個人負担にすることも出来ます。
工事費用を安く抑えたい場合、レバーハンドルで2ロックをオプションにする方法もあります。
4.鍵の種類
防犯性能の高いディンプルキーが標準です。
「非接触型のタグキー」という選択もあるのですが、全戸で電気工事が必要になるため、工事費が高額で実現はなかなか難しいです。
でも、共用玄関のオートロックも同時に非接触化することで、非常に利便性が高まります。
あまり話題にならないし、予算的にも難しいオプションですが、選択肢の一つに加えてもいいかなと思います。
私は個人的にQlioLockという製品を自宅のカギに取り付けて使ってます。
画期的なのは工事が不要という点ですね。
付属の強力な両面テープで取り付けるだけ、電源はリチウム電池なので配線工事も要りません。
スマホのアプリと連携して、外出から戻ってきてドアに近づくだけで自動で開錠されます。
鍵をカバンやポケットに入れたまま解錠されるので、めちゃくちゃ便利です。
ドアの交換工事ってどうやるの?
既存の枠はそのまま残し、上から新しい枠をかぶせるのをカバー工法と呼びます。
カバー工法にはデメリットがあって、上からかぶせるため玄関の開口が数センチ狭くなること、足元に小さな段差が出来ることです。
しかし枠を撤去して新設するとなれば、コンクリートを解体するので、音・粉じん・日数・工事費も大変な負担になります。
その点、カバー工法はあっという間で、1部屋は1日で終わります。
建物全体の日数は職人の数によりますが、1日に3戸~4戸のペースで工程を組みます。
あまり職人の数を増やすと、工事の品質にばらつきが出るので良くないそうです。
日程が後になるほど職人さんが慣れてスピードが上がり、上手になってきます。
最初の方に施工した部屋はしっかりチェックして、手直しさせるべきです。
工事のやり方はLIXIL(メーカー)のホームページに詳しいです。
他のメーカーでも同様の説明が載っていますが、大きな違いはありません。
どこに頼めばいい?
国内メーカーが何社もありますが、正直どこもそんなに変わらないかな…という印象。
三和シャッター、文化シャッター、LIXIL、YKKなど、有名メーカーを選択すればいいでしょう。
どこのメーカーに頼めばいいか分からなければ、馴染みの業者(工務店など)に見積もりを頼んで、メーカーの選定もお任せしても良いと思います。
価格も大事ですが、入居者と直接対応する工事ですから、メーカーと工務店の連携は重要です。
管理組合や管理会社が間に入って調整するのはすごく大変です。
それも含めて、安心して任せられる馴染みの工務店を大事にした方がいいです。
玄関ドアだけで終わらない理由
ドアだけピカピカの最新式でキレイになって、廊下の古さと汚れが目に付くようになったね。
廊下の塗装と床の張替えもしたいな。
玄関ドアをリニューアルすると、終わった後で必ずこのような要望が出ます。
この記事を読んでいただいた皆さんには予想できることなので、頼まれなくても廊下の内装工事の見積もりを準備しておいた方がいいです。
予算が許すなら、ドア交換と同年~翌年に内装工事も計画すればより一層グレードアップします!
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