エレベーターリニューアル工事~【準備編】実施のタイミングと業者選び・見積もり

エレベーター

エレベーターのリニューアル1回目は、おおむね築25~35年に計画されていると思います。

多くは、点検業者から「そろそろ部品が供給できなくなるので」とリニューアルを促され、何となく「そんなものか、部品がなくなって壊れたら困るから、仕方ないね」と考え、点検業者の見積もりをベースにして1~2年以内にリニューアルする…というパターンじゃないでしょうか。

それが悪いことだとは言いませんが、発注する側として、リニューアルの流れ、業者の選び方などポイントを知ってから交渉に臨んでほしいです

ポイントを7つに整理

エレベーターリニューアル工事を検討するポイントを、次の7つに分類しました。

  1. リニューアルの時期はいつか
  2. どこの会社に頼めばいいのか
  3. いくらくらいかかるか
  4. どんな工事をするのか
  5. 着工の前の準備、工事中の注意点は
  6. 工事が終わってから
  7. メンテナンス契約も見直し

少し長くなりそうなので2回に分けて、今回の記事は1~4までです。

エレベーターリニューアルは、マンションの寿命の中で1~2回しかやりません。
頻繁にあるわけではなく、多くの事例を実体験しているフロントはいないんじゃないかと思います私の場合は7~8件ほど。今回の記事の情報が「すべて」ではないことをご了承ください。

1.リニューアルの時期はいつか

メーカーのリニューアル基準

リニューアルが必要になる最大の理由はメーカーが部品の製造をしなくなるからです。

住民さん
住民さん

メーカーの都合で、言いなりになっているようで納得できない!

こういう意見が出る心情は理解できます。

でも、どんな家電や自動車などでも、いつまでも部品を作るわけではありませんから、ある程度は仕方がないことです。

「もし部品が壊れたら修理できないかもしれない。だから新しい機種に入れ替えてください」というメーカー側の言い分です。

リニューアルの時期は、メーカーの基準では「20~25年」と言われます。
私の感覚では、実際には「25~35年(以上)」だと思います。

国土交通省の長期修繕計画ガイドラインでも「30年」に設定していますから、メーカーの基準は短すぎるんじゃないでしょうか?

もっとも「製造終了が早いメーカー」「長持ちさせるメーカー」が分かれていますから、会社の方針でしょうね。

だいたい部品製造が終了する2年くらい前までに案内文書が届くはずです。

でも製造しなくなるだけで、ストックしている部品も一定量あるので、そこまで焦る必要はありません。

なんなら万が一の場合、中古部品を使ってでも何とか直してくれます

地方都市の場合、故障が起きてから空輸等で部品を調達するため、1~2日間のエレベーター停止の可能性があります。
逆に言えば、そのリスクを許容すれば限界ぎりぎりまでリニューアル時期を延ばせると言えなくはないです。

リスクを背負って限界ぎりぎりまで持たせるなんて、管理会社の立場からおススメできることではありませんが、中にはそういうマンションもあるということです

メーカーは決して、そういう方法もあるとは言いません!

リニューアル工事の時期は、資金的にもっとも厳しい

築25年~30年ごろは、2回目の大規模修繕工事や給排水管工事と時期が近いため、資金的に非常に厳しい山場を迎えます。

この厳しい山場をどう乗り越える計画を立てるか、早めに提案できるか、管理会社・フロントの腕の見せどころでしょう。

当然、検討するのが遅くなればなるほど、借入金や大幅な積立金の値上げを選択肢から排除出来なくなります。

プレゼンテーションのイラスト「ホワイトボード・グラフ・男性」
早めの予測と情報開示が合意形成のカギです

2.どこの会社に頼めばいいのか

必ずしもメーカー1社に絞る必要はありません。

複数社の比較検討は可能です。

第一候補は既存と同じメーカー

まず第一候補は、言うまでもなくメーカーですね。

たとえメンテナンスを独立系に頼んでいるとしても、メーカーはリニューアル工事は請けます。

メーカーとしても、この機会にメンテナンス契約を取り返したいでしょう。
 例)三菱、日立、東芝、OTIS、フジテック、その他諸々。

メーカーAからメーカーBに変えることは、互換性が無いので基本的に無理です。
最初から断られるか、丸ごと交換に近い内容になってしまいます。

第二候補は独立系メンテナンス会社

メーカー以外、メンテナンス専門の独立系でも、リニューアル工事を請けます。

全国展開しているジャパンエレベーターサービス、SECエレベーターの2強でしょう。

規模は小さくなりますが、地場の独立系メンテナンス会社も選択できます。

独立系でリニューアルすると、メーカーのメンテナンスは受けられなくなります。
メーカーと縁を切るつもりで判断しましょう。

第三候補は隠し玉

メーカーでもない、独立系でもない会社があります。

特定のメーカー専属の下請けとして、製造・設置・リニューアル工事を担当する会社です。

普通に検討しているだけでは登場しません。

メーカー側から「独立系にやらせるくらいならここを使ってください」のような形で出てくる場合があります。

「第三候補」はどこのメーカーでも用意できるのか、確認できていません。
一部のメーカーから、そういう選択肢が出てきたことがある、という位の情報です。

見積もり合わせ・プレゼンで競わせる

メーカーしかダメ、メンテナンス会社しかダメ、ということはありません。

エレベーターといえど、色んな会社から見積もりを取るのは普通のことです。

大抵は メーカー + 独立系(1社か2社) で競わせます。

見積もり合わせをして、更に「メンテナンス契約」も含めてプレゼンさせます。

見積もり項目を揃えるのは無理

メーカーの見積もりは「一式●●●万円」「出精値引き●●●万円」という形式が主流です。

「一式」ばかりで中身が全然分からない…

50%近い値引きってどういうこと??

内訳を提示してくださいよ

もっともな言い分なのですが、内訳を提示しろと言っても、出てきません。

単価が分からないから、正確な比較も無理で、総額で比較するしかありません。

では何を比較ポイントにすればよいのか、「4.どこまでやるのか」に書きます。

見積もりの書式はバラバラなので比較は困難

3.いくらくらいかかるか

最低限の部品を交換することを「制御リニューアル」と呼びます。

(ほぼ)丸ごと交換する場合は「準撤去リニューアル」や「撤去リニューアル」で、2回目以降の工事ですから、ここでは制御リニューアルについてお話ししています。

かごやレールなどの主要な構造はそのまま流用し、電気系部品やロープなどを入れ替えます。

その最低限の中でもどこまでやるか?という仕様で金額が違います。

見積もり通りにやらなくてはいけない、なんてことはありません。
選べることは、管理組合の意思で選べば良いのです。

次に、どんな構造か、何階建てか、油圧式かロープ式か、非常用か人荷用か、によっても変わります。

構造で大よその標準的な価格が決まって、そこから細かな仕様を決めれば、ようやく実行金額が出てきます。

フルスペックの仕様を選択すると数百万円ちがってきます

経験で言えば、1台あたり500~700万円くらいの幅に収まるでしょうか。
最近はいろいろな安全装置も追加され、どんどん値段が上がっているような気がします。

階層施工時
築年数
用途工事費
1台当たり
8階建33年人荷用600万円
10階建34年人荷用730万円
10階建30年人荷用525万円
13階建38年人荷用600万円
14階建28年非常用1500万円
リニューアル工事費の金額実例

4.どんな工事をするのか

施工内容はメーカー(三菱電機ビルテクノサービス)のホームページが詳しいので参照してください。

通常の制御リニューアルでは、かごや扉やレールなどは流用します。交換しません。

大半の部品が新しくなるとはいえ、少なからず交換しない部品もあるということです。

後で「交換すると思っていた」「最初から対象外」「そんなこと聞いていない」などすれ違いを防ぐため、施工範囲の一覧表、図面などを作るようお願いして、お互いに確認しましょう

既存不適格の対策

年1回、エレベーターは法定検査が行われます。

その法定検査の報告書に「既存不適格」と書いていませんか?

新築でもない限り、ほとんどのマンションは「既存不適格」が指摘されているでしょう。

「今の法律に適合していない」という意味であって、違法じゃないです。
安全基準が変わって、しょっちゅう法改正されて基準が厳しくなるので、既存不適格を解消することにこだわりすぎないようにしましょう。

耐震対策工事

既存不適格の中の代表的な項目です。

大きな地震があるたび「〇〇年耐震」のように、何度も基準が改正されています。

どこまで耐震対策を行うのか、それがどんな耐震工事で費用はいくらかかるのか、費用対効果を考えて決めましょう。

安全対策に「費用対効果」という言葉は馴染まないと思いますが…

「これくらいの金額なら安心のために払ってもいいかな」という気持ちで決める管理組合さんが多いですよ。

戸開走行保護装置・停電時自動着床装置・地震時管制運転装置

  • 戸開走行保護装置・・・・扉が開いたまま運転しないための安全装置
  • 停電時自動着床装置・・・停電発生時に最寄り階まで運転して自動停止する
  • 地震時管制運転装置・・・P波(初期微動)を感知して、最寄り階に自動停止する

必ずしもこの3つ全てをやらなくてもいいです。

見積金額を見て、エレベーター会社の意見も聞いて、必要かどうか考えましょう。

他にも既存不適格になる項目はありますし、近いうちに新たな項目が追加されるかもしれません。

全部やってたら、いくらお金があっても足らなくなります!

オプション工事

既存不適格でもないし、機能的に問題はないけれど、あると便利だったり、見た目を向上させるグレードアップです。

これも挙げだすとキリがないので、個人的おススメ項目を紹介します。

  • マルチビームドアセンサー・・・閉じるドアに手をかざすだけで、挟まれることを防ぐ安全装置
  • 壁と床の張り替え・・・・・・・かご内のデザインを一新
  • 天井照明LED化・・・・・・・蛍光灯より断然明るい(省エネ効果は大したことない)
  • 乗り場のドア・枠張替え・・・・乗り場の枠や扉にシートを張ってデザイン一新
  • バリアフリー対策・・・・・・・鏡や手すりを取り付け
  • かご内防犯カメラ・・・・・・・お好みで

この3つで見積もり比較ができる

制御リニューアル基本工事 + 既存不適格解消工事 + オプション工事

この3つに分類して、見積もりに含まれる項目を整理すれば、ほぼ同じ中身になります。

完全な仕様統一は無理でも、「総額」の金額比較が可能になります。

今回は施工の時期、見積もり依頼先、およその工事費用、工事の内容の4点について書きました。

個人的経験に基づくので、もっと詳しい情報、最新情報もあるかもしれません。

次回は工事の準備、着工から完了、完了後、その他のポイントについて記事にします。

後編はこちらへ続きます

コメント