宅配ボックスの後付けが難しい理由3選~意外に管理組合運営の根幹に関わる問題かもしれない

宅配ボックス

ニュースで話題になっていましたが、ヤマトがオートロックを解除して、置き配が出来るようなサービスを導入するそうです。

配達時に一度きり使える解錠パスワードが交付されるシステムだとか。

2021年中に全国1万棟で展開ということなので、浸透するのは相当先の話ですね。

でも新型コロナの影響、再配達軽減など、タイミング的にちょうど色々と重なって好機とみたんでしょう。

既存のマンションではオートロックのシステムが対応出来ないでしょうが、もし実現可能となった場合、セキュリティを不安視して反対意見が出ることは容易に想定できます。

そんなことは当然ヤマト側も織り込み済みでしょうから、どのような提案になるのか今から楽しみです。

置き配はどこまで浸透するか??

宅配ボックスはどれくらい普及しているか

宅配ボックスが注目され始め、既存マンションでも導入を検討する機会が増えました。

宅配ボックスは素晴らしい商品が多数発売されているのですが、それなりに費用が掛かるためか、あまり導入が進んでいません。

話題に上るし見積もりも取るけど、設置までなかなか辿り着けないというイメージです。調べてみたところ、客観的に調査されたデータがありました!

「大和ライフネクスト」の管理物件に限るデータなので、多少の偏りはあるとしても、調査対象が3,921件もあるので参考になると思います。

2020年11月20日のレポートから引用させていただいたので、最新データです。

築10年以内は、驚きの設置率100%
築25年以内でも78.9%というハイアベレージです。

ところが築26年以上(1995年ごろ)を境に、一気に設置率が下がります。

しかも後付けで設置したのはわずか2.5%

新築マンションでは必須の設備にもかかわらず、後付け導入がいかに難しいかを物語っています。

大和ライフネクスト株式会社 マンション未来価値研究所
「分譲マンションにおける宅配ボックスの設置率および
設置検討時の事例について
から引用

導入できない理由 その①:場所がない

最初から宅配ボックスを想定した造りになっていないので、知恵を絞るしかありません。

宅配ボックス最大手のフルタイムシステムによれば、宅配ボックスの設置台数の目安を
 住戸数 × 20%
としています。

私の感覚的に、お歳暮・お中元など繁忙期は稼働率が100%近くなるものの、通年の平均で見るとちょっと多すぎる気がします。

実際、私が見積もりを取るときは戸数に対して5%~10%くらいに抑えています。

どうしても足りなければ増設することも可能です

対策(案):省スペースでポストと一体型の製品

集合ポストと組み合わせるタイプなら、デザイン的に一体感があってキレイですし、既存スペースにも取り付けられる可能性があります。

ただどうしてもサイズが小さめなのと、設置できる台数が限られます。

それでもどうしても設置したいという場合には、おススメできます。

共用玄関が複数に分かれている場合は、設置台数も少し多めに確保したいです。

設置場所は玄関に近い方が良い

玄関から遠い場所に宅配ボックスがあると、かえって不便を感じます

自分のポストから不在票を取って、離れた場所の宅配ボックスまで取りに行って、また戻って…という手間。

そのうえ、重たいお米や水なら運ぶのも大変

それだったら宅配ボックスに入れないで、再配達で自宅の玄関まで配達してほしいと思うわけです。

宅配ボックスから自宅まで運ぶのが大変

導入できない理由 その 代替手段が豊富で利便性が高まっている

コンビニ受け取り、無人受け取りロッカー、スマホで配達時間の指定・再配達依頼など、それぞれの都合のいい方法で受け取る手段がどんどん豊富になり、利便性が高まっています。

宅配ボックスじゃなくてもいいんじゃない?という理由のひとつになります。

「再配達の有料化」などの情報もあったので、「とりあえず様子を見よう」というムードが漂っています。

導入できない理由 その③ 世代によるニーズの溝の深さ

とはいえ共働きで夜遅くまで働いていて、通販を頻繁に利用する特に若い世代にとって、やっぱり宅配ボックスはあると便利で魅力的です。(だからこそ最近の建物は設置率100%なのでしょう)

予告なしで届く荷物もあるし、ポストに入らないサイズの郵便物は宅配ボックスに入れてくれるので、ありがたい存在です。

共働き家庭のイラスト
若い共働き世代からのニーズは高い

逆に日中の在宅率の高い高齢の世代からは、反対の意見が出ます。

いつでも荷物を受け取れるし、再配達も頼めるし、不便を感じないから必要ない、ということです。

そもそも「宅配ボックスのシステムが良く分からない」という声も聞かれます。

組合員<br>(反対)
組合員
(反対)

宅配ボックスの仕組みが良く分からない。
現金とか生ものとか
冷蔵冷凍品を入れられたらどうするの?

宅配ボックスの賛否アンケート事例

「宅配ボックスとはなにか」「宅配ボックスのよくある質問」など、くわしい説明を付けて賛否を問うアンケートを実施しました。

その結果6割以上が設置に賛成したので、理事会は総会に「宅配ボックス設置案」を提案します。

総会では、賛成者のほとんどが委任状を提出したのに対し、反対者は総会に出席しました

アンケートで大勢が決まっていたので、承認されるんだろうと思っていました。

分かれ道で迷う人のイラスト(男性)
理事会が方向性を決めていない総会っていったい・・・

これが総会の問題点というか怖い点というか。声が大きい意見が通りやすいものです。

さらに、(後で分かったことですが)理事会が「アンケートで賛成が多かったから総会に提案しただけで、別にどっちでもいい」というスタンスでした。

提案する側がこのスタンスでは、出席者の意見「だけ」に左右されてしまいます。

議長はアンケートの結果とは関係なく、出席者の声に従って反対意見に委任状の票を投じました。

本来、議案の提案者である理事長が反対票を投じるなんて、(特別な事情が無い限り)あってはいけないことだと思います。

アンケートもやって、理事会が承認して総会に提案しているのに、少数派の反対意見に従って廃案にするのはいかがなものでしょうか??

こうして、多数派だったはずの宅配ボックス導入は覆されてしまいました。

図らずも管理組合の問題点が露見した

事前アンケートで賛成多数だったのが総会でひっくり返してしまった。

それも、議長が総会に出席した「少数派の反対意見」を採用してしまった。

議案の提案者である以上、議案の提案主旨が揺らぐ新たな事実が発覚したとか、重大な欠缺が見つかったとか、特別な事情が無い限り、議案どおり賛成の意思表示をするべきだったと思います。

組合員<br>(反対)
組合員
(反対)

賛成したいなら、総会に来て発言すればいいんだ。

来なかったのがいけないんだ。

こういう意見もあります。

しかし事前にアンケートで全体の意向を確認しており、欠席者は議案の主旨に賛同して議長に委任しているのだから、賛成の意思表示とみなすべきなんです。
(賛成者の多くの若い世代は、仕事で総会に出席するのが難しい人も多い)

組合員<br>(賛成)
組合員
(賛成)

出席した人だけの声が大きい意見が通るなら、総会なんて意味ないだろ。

アンケートだって意味ないじゃないか。

宅配ボックスの導入する・しない以上に、管理組合に対する失望を生んだのではないかという方が、のちに尾を引く問題になると思いました。

きっかけは宅配ボックスですが、今後の理事会の運営の在り方を見直さなければならないと考える出来事でした。

まとめ

宅配ボックスの「後付け」は3つの理由でなかなか進展していません。

  1. 場所的な制約がある
  2. 代替手段が増加して利便性が向上しており、様子見のムードが漂っている
  3. 世代間のニーズの不一致
  • 対 策
    • メールボックス一体・省スペース型の製品を採用する。
    • アンケートを実施した場合は、住民全体の意向を尊重する。
    • 総会に提案する場合は、理事長(理事会)としての方針を明確にする。

管理組合の運営について考えさせられました

今回は宅配ボックスでしたが、インターホン機械式駐車場インターネット設備など、利用する頻度や意識に差が大きい設備は他にもあるので、同じことが起こりうると思います。

アンケートでも総会でも、広い世代の立場とニーズを考えて、全体を俯瞰し、管理組合に期待を抱いてもらえる運営をしなければ、いずれ理事会の人材不足の一因につながると思わされた一件でした。

 

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