「協力金」制度の背景~外部の区分所有者・役員辞退者に悩むマンションの解決策になりうるか

協力

役員の選出に悩んでいるマンションが多い中、不公平感を解消するため導入される「協力金」制度。

負担金、特別管理費など呼称は様々ですが、マンションに居住していない区分所有者から特別に金銭を徴収するものです。

最高裁まで争った末、役員に就任できない外部の区分所有者に対して管理費・積立金の約15%にあたる月額2500円の「協力金」の請求が認めらたのは平成22年(2010年)のことです。

判決は大変注目され、外部の区分所有者だけではなく、居住していても役員を辞退する場合にも「協力金」を請求することもあります。

中には判決を「月額2,500円まで請求できる」「管理費・積立金の15%まで請求できる」「25%(2,500円と15%を混同)」など、誤解している方もいるようです。

この結論部分は、どこのマンションでも適用できるものでしょうか?

私自身も判決の結論しか見ていなかったので、改めてこの制度の背景を整理します。

役員に選任できる範囲

標準管理規約では、役員は「組合員のうちから」選任すると定められているだけですが、実際には役員就任の資格に様々な制約を加えることが多いです。
 例) 居住する組合員、組合員と同居の配偶者及び一親等内(未成年を除く)の親族 など

また、「原則として居住する組合員」という文言を追加すれば外部の区分所有者にも就任の余地を残すことが出来ます。

平成30年の国交省調査によれば、21.4%の管理組合で「外部の区分所有者も役員に就任出来る」としています。(賃借人も就任可能とするのが3%もあるのは意外です)

平成22年1月26日 最高裁判決

判決の主旨

管理費と積立金の約15%にあたる月額2,500円の協力金を請求することが認められたものですが、判決の理由は次の通りです。

  • 金額が多額ではないこと
  • 規約で外部の区分所有者は役員に就任出来ず、利益のみ享受する状況にあること
  • 支払いを拒んでいるのは外部区分所有者180戸の内、5戸に過ぎないこと

これらの条件の下で「受忍限度を超えない」「一部の区分所有者だけに特別の影響を及ぼすものではない」と判断しました。

つまり、争われたマンションの事情を考慮したものであって、絶対的な基準ではありません

事情が違えば異なる結果になる可能性もあるので、この結論を一般化できません。

例えば規模が小さいマンション、協力金の負担が過大、外部区分所有者が少ない、反対者が多いなど、事情が異なれば(争いになったときに)認められない可能性があります。

マンションの規模(戸数)、外部区分所有者の割合と役員就任の可否、反対者の割合、協力金の割合など、総合的に判断して決める必要があります。
判例があると言っても、一方的に決めると争いに発展する恐れがあるので、慎重に話し合って合意形成するべきです。

しかしこの判決が一つの判断材料になったことは間違いなく、話題性も十分だったため、判決後に多くのマンションで協力金制度の話題が出て、導入が進みました。

規模が大きく好立地のマンションは賃貸化が進む

世代交代が進むにつれて、半数以上が賃貸化しているマンションもあります。立地が良くて1LDK~2LDKなど単身・若者・高齢者でも住みやすい間取りならなおさらです。

昔から居住している組合員も高齢化が進み、特定の組合員に役員の負担が偏って、これらが不平不満の原因となっています。

そういった状況から「役員報酬を出そう」という話題につながってきますが、報酬を出すとしても財源は管理費ですから、住んでいても住んでいなくても等しく負担することに対して不公平感があります。

居住者の役員負担が不公平感に直結している

外部の区分所有者は手間と費用がかかる

印刷代・郵送代・口座振替手数料など、賃貸に出している部屋は何かと費用がかかります。
 ※入居者と所有者の双方に配布する資料があれば、印刷代は2倍+郵送代が必要
 ※管理費・積立金を所有者、水道代を入居者から別々に引き落とす場合、口座振替手数料は2倍

費用だけの問題ならまだしも、総会資料は発送の手間と郵送代もかかるのに、出欠・委任状の返信率が悪く、最悪の場合は特別決議の4分の3の要件を満たせない足かせになっている事例もあるので、ますます居住組合員との溝が深まります。

管理会社としても、賃貸の部屋は手間がかかると思っています。
トラブルの発生率も高いし、所有者との連絡体制が整っておらず、責任を賃貸の管理会社に丸投げしていることも多いです。

外部所有者
外部所有者

え?うちが原因で漏水があったんですか?
賃貸の管理会社に全部まかせてるから、よく分からないんですよ。

そっちで対処してもらってください

こういう無責任なオーナー、結構多いんです!

役員に就任するか、金銭を負担するか。
どちらかで溝を埋めるしかありませんが、居住していないと役員として機能することが難しいため、金銭で解決するしかないという結論に至ります。

遠方に居住していても、関心が高くて役員をやりたいという方もいます。

リモートが発達しているとはいえ、建物の様子など実際に自分の目で見て確かめないと、なかなか話題を理解しづらい難点があります。

喜ぶ人に嫉妬する人のイラスト(男性)
居住・外部区分所有者の溝はかんたんに埋まらない

役員辞退者にも協力金を請求する

外部の区分所有者と同じように「役員に就任出来ない事情がある」または「就任を拒否する」など辞退者に対して協力金を請求する場合もあります。

ここでの問題は「お金さえ払えば役員就任は免れられる」という解釈も出来るので、その点をドライに割り切れるかという点です。

私は、辞退者が出ることは「順番制の宿命」と考えなければ成り立たないと思っています。

役員
役員

なんであの人は順番で選ばれたのに理事会に一度も来ないんだ!

出席するように手紙を送ろう。それでダメなら訪問しよう!

こんなことに時間と労力を割いて無理やり参加させようとするより、割り切って負担金を課した方が合理的じゃないでしょうか?

順番制には「役員就任を強制する効力」はありません。
仮に規約や細則で順番制を定めていたとしても強制はできません。
管理組合と役員の関係は「委任契約」なので、双方が承諾しなければ就任したことにならないからです。

辞退の理由によって扱いを分けることも

「辞退の理由を考慮せず一律で請求していいのか」という疑問も生じるでしょう。

就任の意思があってもやむを得ない理由があって就任出来ない人(高齢、病気など)、そもそも就任の意思が無い人を、同一視するのかどうか。順番制であれば「滞納者で役員として相応しくない」という人に当たることもあるでしょう。

このような場合には、請求金額に差を付けるという方法もあります。

協力金を請求することは規約に定めなければいけません

さらに役員の選出・辞退の基準を主観で区別することは避け、役員選出の細則を作って明確にするべきです。

協力金制度を検討するなら、この2つをセットにすることをお勧めします!

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