マンションで起こる事故のひとつ。経験したくない事故のひとつ。
それでも現実に起こりうる事故。
ブログのテーマとして相応しいのか、迷いはありましたが…共用部分における飛び降り事故(自殺)と、管理組合や組合員に及ぼす影響について書いてみます。
2つの事故発生事例
部外者、それも強い意志で侵入しようとする者にとって、オートロックや防犯カメラは全く関係なく、侵入することがあります。
オートロックすり抜け
マンションに無関係の人物が館内に侵入し、屋外の非常階段の手すりを乗り越えて転落死する事故が発生しました。
防犯カメラの映像で分かったのは、入居者の出入りのタイミングで正面のオートロックから侵入している姿です。
相当防犯意識が高くなければ、知らない人に声を掛けることは簡単ではありません。
屋外階段の工事中
屋外階段の工事のため、職人が頻繁に出入りしていました。
階段の1階には侵入防止の扉があり、扉を閉めると自動的に施錠されるタイプです。
外からは専用のカギが無ければ入れませんが、内側からは避難経路なので自由に外に出られます。
工事中は、現場責任者に扉専用のカギを貸与していました。
ところが職人の出入りのたび解錠する手間を省くため、無許可で「解放状態」にしていました。扉で❝とある操作❞をすれば、鍵をフリーの解錠状態にできたんです。
(そんな機能があることは誰も知りませんでした)
ある日作業が終わって、解錠状態にしたまま施錠に戻すのを忘れたのです。
そこにたまたま死に場所を探してさまよっていた人が、偶然にも開いていた階段から侵入し、上階まで登って階段の手すりを乗り越えて転落死しました。
(当然施工会社の責任の話に発展しましたが、それは今回のテーマから外れるので割愛します)
実は他にも同様の事例の経験がありますが、なぜか「マンションと無関係の部外者」によるもので「オートロックのマンション」で発生しています。
オートロックだから安心とは言えません。
管理組合と組合員は完全な被害者
亡くなった方がいるということで、その責任を強硬に追及しようとする意見はあまり出なかったのですが、明らかに管理組合と組合員は被害者です。
言葉を選ばずに言えば、迷惑以外の何物でもありません。
資産価値の低下はあるのか?損害賠償請求は?
マンション内で起きた事故の情報は、売買の際、売り主が買い主に伝える必要があります。
それが共用部で起きた事故であったとしても、後に発覚してトラブルになる可能性があるものなら、予め伝えておくべきでしょう。
では共用部分で起きてしまった自殺や転落事故は「心理的瑕疵」にあたるのでしょうか?
不動産物件の取引に当たって、借主・買主に心理的な抵抗が生じる恐れのあることがらをいう。心理的瑕疵とされているのは、自殺・他殺・事故死・孤独死などがあったこと、近くに墓地や嫌悪・迷惑施設が立地していること、近隣に指定暴力団構成員等が居住していることなどである。物件の物理的、機能的な瑕疵ではないが、物件の評価に影響することがあるため、知っていながらその事実を説明しない場合には契約不適合責任を問われることがある。もっとも、何が心理的瑕疵に当たるかについての明確な基準はない。
不動産情報サイト アットホームより引用
心理的瑕疵の定義を見ると「自殺」は当てはまるものの「明確な基準がない」とされています。
個別具体的に判断する必要がありそうです。
この事故のせいでマンションの資産価値は低下するでしょう?
遺族に損害賠償請求できるんじゃないか?
心情的にはその通りなんですが、弁護士の中でも意見が分かれています。
損害賠償の基準(資産価値の低下)
心理的瑕疵により、売却価格(家賃)が下がったことを証明できれば、その差額が損害額になります。
しかしそれも、実際に売却などの行動がなければ「潜在的な損害」のままなので、請求できる可能性は低いでしょう。
弁護士によるQ&Aなど調べてみると、一般論として、損害賠償請求は難しいという意見が目立ちました。
とはいえ、損害賠償請求は個別の事案ごとに事情を考慮するので、最終的に裁判所の判断です。
つまり裁判を起こしてみなければ分かりません。
事故が発生した場所と部屋の位置関係(遠いとか近いとか)も影響するし、その影響も永遠ではなく時間の経過と共に薄れていくと考えられます。
判例では6~7年が心理的瑕疵を認める境界線のようです(結局それも個別判断です)。
しかしそれもこれも、遺族が「相続放棄」したなら、損害賠償請求は出来なくなります。
対策はあるのか?
上記の例からも、防犯カメラやオートロックは部外者の侵入を100%防ぐものではありません。
入居者の出入りと共に侵入する「すり抜け」に対して、入居者がそれに気づいて声をかけていれば、あるいは防げたかもしれません。
でも侵入を防げたとしても、結局、別の建物で同じ結果が起きてしまうのでしょう…。
管理会社は、売買で告知する場合がある
このような事故が起きてしまったマンションで売買するとき、購入予定者にマンションで起きた事故の情報を伝える場合があります。(管理組合と告知について合意している場合)
管理会社が発行する「重要事項調査報告書」
売買契約の前に、管理会社は「重要事項調査報告書」を仲介業者に発行します。
その報告書などの情報を基に、仲介業者は購入予定者に物件に関する説明を行います。
その報告書の項目に「共用部分における重大事故・事件について」があります。
文字通り共用部分で発生した重大な事故や事件で、購入者に影響があるものを回答します。
ですから共用部で起きた事故は、管理会社が把握していて、管理組合が告知することを合意していれば、報告書に記載します。
「把握していれば」ですから、何十年も前の事故など、知らないものは回答しません。
【参考資料…PDFが開きます/13項目:その他】
マンション管理業協会:管理に係る重要事項調査報告書作成に関するガイドライン
ベランダは共用部ですがお部屋に専属の設備ですから、もしベランダで事故があったのなら、お部屋と同様に考えるべきだと思われます。
管理組合や住民さんにとって、まるで、備えようがない災害のようです。
人の死が絡んでおり、住民さんの心理的な負担も大きいのに、どこからも補償
は受けられず、やり場のない怒りを抱えてしまいやるせない思いがします。
時間がいつか解決するのを待つしかないのでしょうか。
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