フロントの大事な仕事のひとつ、修繕積立金の改定の提案があります。
積立金の値上げの額は、何を根拠に決めていますか?タイミングはいつですか?
多くの管理組合は、長期修繕計画でシミュレーションを作成して、値上げの時期と金額を決めているのではないでしょうか。
でもこの長期修繕計画というものは、信用しすぎてはいけないと思っています。
長期修繕計画の意義は
大手の管理会社なら、設計部署とフロントが連携して作成・・・ということが出来ます。
でも中小の管理会社ではそうはいきません。設計部門が無い、なんてことも普通です。
私の前任者は自分で長期修繕計画を作っていたようです。
建築の専門家でもないのに、経験則で作った長期修繕計画では客観性・正確性に欠けます。
フロントの能力だけで作った資料を根拠に、値上げの計画を決めるのは責任が重すぎる・・・
でも結果的に、管理組合は「それ」を指針にしながら、積立金を見直して、工事の時期を判断して、運営していました。
建築の専門家でもないフロントが作った長期修繕計画表が、たまたま上手く機能したのでしょうか?
誤解を恐れずに言えば、長期修繕計画っていうのは「適当」でいいと思っています。
「適当」というのは「いい加減な中身」という意味ではなくて、あくまで目安・参考でにして、絶対的なものと考えたり、計画に縛られてはいけないという意味です。
計画はあくまで計画。
それをどう使うのか、管理組合の主体性が試される問題です。
長期修繕計画の作り方
私が勤務する会社には、設計部門がありません。
そこで、大規模修繕工事でコンサルタント会社(設計事務所)が入っていれば、その設計事務所に頼みます。基本的な数量データなどを持っているから、早いし、比較的安価です。
設計事務所と付き合いがない管理組合の場合、公益財団法人マンション管理センターの「長期修繕計画作成サービス」を利用しています。
どちらも、作成費用の実費は管理組合に支払っていただきます。
長期修繕計画の作成費用・作成期間の目安
依頼先 | 金額 | 作成期間 | 備考 |
設計事務所 | 30~60万円 | 3~6か月 | 規模や設備により異なる |
設計事務所 (コンサル歴あり) | 15~20万円 | 1~2か月 | データを保有しているので安価で早い |
マンション管理センター | 21,000円 | 約2週間 | アンケート形式で作るので超概算 |
長期修繕計画をどう考えるのか
長期修繕計画のとおりの年度・金額で、すべての工事を実行することはあり得ません。
まずこの前提と認識に立っていなければ話が進まないです。
計画は計画、目安にすぎません。
専門家が作った計画であっても、それをどう使うかは管理組合次第です。
長期修繕計画表の項目を1つずつ検証してみよう
長期修繕計画の中に「一般会計から支出する工事」が含まれている場合があります。
必要以上に積立金から出ていくことになっているので、試算の誤差が大きくなります。
積立金で行わない項目は除外して、修繕項目と時期を把握する程度にとどめます。
- 「〇〇年くらいに〇〇を直す時期がくるんだな」
- 「そろそろ見積りを取ってみよう」
このように、一般会計の事業計画を検討する参考にします。
積立金の値上げ根拠にならない?
長期修繕計画は、積立金の値上げの根拠にならないのでしょうか。
根拠にするのは良いですが「弱い」と思っています。
将来のことは誰にも予測ができないからです。
根拠として弱いと思っても、計画は絶対的なものではないんだという前提に立って、将来を考える材料になり、総会で説明する資料として活用できればいいと思います。
ですから長期修繕計画に高い精度を求める必要はありません。
計画を絶対のものとして従うのではなく、説明力のある資料に作り替えていくことが重要だと思います。
より説明力のある長期修繕計画の作り方について、マンション管理センターの長期修繕計画を活用する方法でご説明します。
マンション管理センターの長期修繕計画の活用
フロントの仕事としてはちょっと手間がかかりますが、たった21,000円で作成できるので、マンション管理センターの長期修繕計画を活用します。
1.理事会又は専門委員会において、専門家に見直しを依頼する前に、現状の長期修繕計画の内容や修繕積立金の額をチェックし、適切な内容か、またどのような見直しが必要か検討する。
2.理事会又は専門委員会において、長期修繕計画の見直しを依頼した専門家から提出された長期修繕計画の内容と修繕積立金の額の設定について、説明を受けながら内容を比較しチェックする。
3.長期修繕計画の見直しの結果、修繕積立金を増額したいので、総会・理事会に諮る際の参考資料とする。
「このサービスを利用していただける事例」 から引用
上記の通り「長期修繕計画をチェックする」という意味合いが強いので、内容の正確性についてはそれほど期待できません。
現地調査せずに調査シート(アンケート用紙)に入力するだけで、2週間で出来上がってきます。
超ざっくり・概算で、マンション固有の事情も反映されません。
でもそれでいいんです。
国交省が定めたモデルの通りの様式で、必要な項目を網羅していて、紙の資料もデータ(エクセル)も貰えるから、自由に修正することも可能です。
次に、その資料にアレンジを加えて管理組合に合わせて修正を加えていきます。
フロントとして、どれだけマンションのことを熟知して、提案できるか、腕の見せどころだと思って楽しんでいる仕事でもあります。
マンションの固有の事情に合わせた修繕計画に修正
- 修繕実施の計画年度をずらす
- 見積もり金額や過去の実績金額に合わせて、単価を訂正する
- 管理費で支出する項目を削除する
- 計画に入っていない計画を追加する
どうして修正を加えたのか、理由が分かるようにコメントを付け加え、赤字や青字で明記しておきます。(最初の計画と何が変わったか、一目で分かります)
こうして20~30年の修繕計画=支出の計画が出来上がったら、次は資金のシミュレーションの作成に取りかかります。
資金計画シミュレーションの作成
- 積立金を据え置きにした場合
- 不足が出ないように一気に値上げした場合
- 段階的に値上げした場合
- 借り入れ金を利用した場合
中には非現実的な金額のシミュレーションになるかもしれませんが、それでもかまいません。
どれも同じようでは選択できなくない、ということもありうるので、違いが際立ってもいいです。
さらに余裕があれば、同程度の築年数・同規模マンションの平均積立金額の資料も用意しておきます。
これで組合に提出する下準備が出来上がりました。
理事会に提出して議論
- 長期修繕計画表(マンション管理センターのオリジナル版)
- 長期修繕計画表(手を加えた独自バージョン)
- 修繕積立金シミュレーション(据え置き・値上げ・借り入れなど数パターン)
- 他のマンションの平均積立金(実例)
それを理事会に見せて「元々の計画表はこうでした。アレンジして修正しました。こんなシミュレーションになりましたがどうでしょう?」と提案して意見を聞きます。
そして理事会の意見を取り入れて再修正を加え、仕上げます。
ここまでやっても「ざっくりとした計画」の域は出ません。
しかし、理事会の意見が入ることで「自分たちで作った」という納得度の高い計画に近づくと思います。
大事なことは、自分たちの意見が入っている計画になっているのか?誰かの押し付けの計画になっていないか?だと思います。
この計画が積立金の値上げの指針になっていくのですから・・・
まとめ
- 長期修繕計画はどんな専門家が作っても目安の域を出ない。将来のことは誰にも分らない。
- 計画を絶対のものにしたり、縛られてはいけない。
- 管理組合の意見が入っていなければ、主体性がなく、活きた資料にならない。
- 積立金の設定金額は、資金シミュレーションと、他のマンションの設定額を参考にして、総合的に判断して決定する。
長期修繕計画は絶対的なものだと誤解されやすく、扱いが難しいので、これまでの考えを基本に据えて、提案・説明するように心がけています。
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