専有部分を他人に貸すことは、規約にも規定されている所有者の自由な権利です。
その一方、権利と表裏一体の「義務」を忘れがちな所有者(大家さん)がいたり、賃借人によるトラブルも起こりやすいです。
今回は区分所有者(大家さん)、賃借人にまつわるトラブルの経験、管理組合でどのような議論が行われたのかを整理してみます。
管理会社と賃貸管理会社、同じようで全然違う
管理会社の社員なら、賃借人に「管理会社の違い」を何度も説明した経験があるはずです。
ストーブが壊れたのでガス会社に電話したら「管理会社」に連絡しろと言われました。
修理してもらえますか?
それは「賃貸の管理会社」のことですね。
私たちは「共用部分の管理会社」なので、業務の範囲が違うんですよ。
(たらい回しになるから、ガス会社も正確に説明して欲しいんだよな…)
ひとくちに管理会社といっても、大家さんと契約している「管理会社」と管理組合と契約している「管理会社」は、責任範囲も仕事の中身も全く違います。
呼び方が同じ「管理会社」だからしょっちゅう間違われ、業者ですら混同することが多いです。
中には「賃貸の管理会社」を入れずに、大家さんが自ら入居者と契約や管理しているケースもあります。
これがやっかいで、大家さんが積極的に関与・対応してくれないと、騒音問題や漏水などのトラブルが起きたとき、適切な対応がとられず、周囲の住民さんが大変迷惑を被ることになります。
どこの賃貸管理会社が入っているのか、管理組合も管理会社も把握できないのが殆どです。
(個人の自由だから、届け出が無い限り分かりません)
漏水が起きて大変だったこと
あるマンションの賃貸の部屋で起きた漏水事故の事例です。
上下階、つまり加害者も被害者も賃貸の入居者で、所有者は遠方に在住、管理会社も別々です。
ある雨の降る夜、天井から漏水する事故が発生しました。
緊急対応に駆け付けたところ、水気が全くない場所の天井から少量の漏水がありました。
給排水設備の異常は考えづらく、上の人が水をこぼしたのか、もしかして防水が切れたのか・・・・
下の階から調べられることには限度があるのですが、上階はちょっとクセがある人で、入室調査に協力してくれません。
そこで、上階の所有者に連絡すると「管理会社にぜんぶ任せてる」
賃貸管理会社に連絡すると「入居者に協力するように言っておきます」
誰も責任もって行動しないなら、あとは当事者で勝手にやれば??
と言いたいのをグッとこらえて。
なにせ初期対応で下の階に立ち入っているので、結局最後に話が回ってくるのが目に見えていました(もっと面倒くさいことになる)。
それに原因を特定できないうちは、万が一にも共用部から漏水している疑いを捨てきれず、管理会社としての責任を放棄できないと思ったからです。(区分所有法第9条)
結局、役員も巻き込んで上階の入居者を説得し、ようやく調査に入りました。
漏水発生から2ヶ月以上経過していました。
結局、管理組合と私たちが段取りしました。
しかし本人は水をこぼしたことは認めないし、日数が経ちすぎて痕跡も残っておらず確認できません。心配していた防水にも漏水するような損傷がない。
これといった原因を特定できなかったので「疑わしいかな…?」という箇所をちょっこっと補修して様子を見ることにしました。(いちおう共用部分の補修)
幸いにおその後の漏水は起きなかったので、スッキリしないまま対策が終了。
その後の被害宅内装復旧についても、すべて私たちにお任せ。
内装業者の見積もり・作業手配・連絡調整し、管理組合の保険を使って「漏水調査」と「共用部からの漏水事故と推定」ということで処理を終えました。
驚いたのは、大家さんはもちろん、賃貸管理会社が一度も現場の確認に来なかったことです。
上下階の入居者・オーナー・賃貸管理会社。
登場人物が多いし、非協力的な人が多いし、何倍も大変!!
同じ管理費・積立金…それって公平?
漏水に限らず、賃貸の部屋は騒音や滞納などのトラブルが多いイメージがあります。
入居者次第なので、常識的な人・そうでない人もいるわけで、一概に言え偏見かもしれませんが。
でも賃貸だから手間がかかる客観的な事実もあります。
管理費等の請求 | 管理費・積立金は所有者へ。使用料(水道・自転車など)は入居者へ。 2倍の請求事務と郵送が必要。 |
お知らせ | 入居者に配布 + 内容によって所有者にも郵送。 印刷代・封筒代・切手代、宛名シール・封入発送の手間。 アンケートの場合は返信封筒と切手代。(総じて返信率が低い) |
総会資料 | お知らせと同様、返信封筒と切手代(やはり返信率が低い) ➡「4分の3の特別決議の障害」になる 規約変更が出来ないなど、実際に組合の運営に支障が生じている深刻な問題です。 |
行方不明 | 転居してある日突然「宛先不明」で郵便物が戻ってくる。 電話番号も変わり、連絡を取る手段がない。 (賃借人にお願いして連絡を取ってもらったりする) |
自分のマンションなのにそんなことでいいの?何考えてるの?と問いたくなります
外部所有者との不公平を解消するには
どんなに手間がかかっても、強制的に書類の返事を出させることはできません。
それが管理組合の運営に支障をきたすようなら、役員や組合員に不満がたまるのも当然です。
その不満が蓄積すると「外部の所有者に金銭を負担してもらう」という意見に辿りついてしまいます。
郵送代・通信費を請求
これは実費の負担ですから理解を得られやすいです。
切手代や封筒代に相当する費用を請求するものです。
実際には月によって多少のバラつきがあるのですが、変動すのが大変なので、毎月200円など定額で請求します。
協力金を請求する
この業界では有名な判例です。(最高裁平成22年1月26日判決)
マンションに居住していない所有者に「協力金」という金銭の負担を求めることが認められました。
判例の中で登場した協力金の計算・金額は次の通りです。
(管理費8,500円+修繕積立金9,000円)×約15% ・・・ 月額2,500円
この数字が独り歩きして「協力金は15 %」「協力金は2,500円」という2種類の説が広まってしまっているようですが、判例は上記の通りです。
なお、判例ではマンションの諸般の事情を考慮した上で、協力金の金額(割合)を妥当と認めているのであって、全てのマンションに当てはめることには疑問があり、個別に判断せよということです。
判例の要約は公益社団法人全日本不動産協会のホームページが分かりやすいです。
また、協力金について別の記事でもう少し詳しく書きました。
協力金を導入する場合は、判例で押し切らずに「参考」にしましょう。
合意を得られる金額をよく話し合う(結論よりプロセスを大事にする)べきです。
そうしないと、今度は「金を払ってるんだからこれくらいやれ」という主張が強くなりますよ。
役員就任問題・役員報酬問題・協力金はリンクする
外部の区分所有者は(原則として)役員に就任できません。
その結果、役員のなり手が少ない、住んでいる組合員が少ないという悩みを抱える管理組合では、不公平感が高まります。
この不公平感を和らげるというために「役員就任問題」「役員報酬問題」「協力金」は関連するテーマとなって議論されます。
大家さんは賃貸で利益を上げているけど…
役員の負担は住んでいる所有者だけなんて、不公平じゃない?
外部の区分所有者は役員をやれないよね。
協力金を負担してもらって、それを役員報酬の財源にするのが合理的かな?
このような意見が出てくるのも不思議ではありません。
「辞退金」まである
役員やらないのは外部所有者に限らないよね。
住んでいても辞退して役員をやらない人、いるでしょ?
協力金が「役員をやらない、やれない」ことに対する罰金ととらえれば、「住んでいても役員を辞退する人も同じでしょ?」という考えが出てきます。
そこで、役員への就任を辞退した場合に「辞退金」として金銭負担を認めた判例もあります。
この辞退金に関する判例は「過大な金額ではないこと」「一定の期間後に役員を引き受ければ返金されること」「制度の導入時に異議無く決議されていること」など、そのマンションの事情を考慮した上での結論です。
ですから判例をタテにして「辞退金」がどこのマンションでも当てはまるルールと考えるべきではないということです。
この辺りは協力金と同じですね。
さらに認識しておくべきなのは、お金を払えば役員の辞退を認める制度という見方が出来てしまい、本来の主旨から外れてしまう恐れがあるということです。
結局、最後はお金で解決するしかない?
お金で解決…それがいいか悪いか、人それぞれ・管理組合それぞれの価値観です。
何が正しいのか価値観を戦わせても、きっと議論は平行線をたどるでしょう。
でも、このような問題の「有効な落としどころ・選択肢の一つ」と考えられればいいと思います。
個人的には、正解の出ない問題の最終解決は金銭しかない、と思っていますが…ドライすぎるでしょうか?
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