理事長は総会で反対できる?

携帯電話基地局を設置の提案が舞い込んできた、とあるマンション。

管理組合にとってメリットは賃料収入、その一点のみ。

デメリットは、税金がかかる・外観が変わる・電磁波を心配して嫌う人が居る、などなど。
1人でも反対者がいたら、数で押し切って設置するものではないと思います。

携帯電話基地局設置の臨時総会

そのマンションの理事会では、携帯電話基地局設置案に理事会の全員が賛成しました。

理事長
理事長

特に問題無し、収入源になるから進めましょう

では、臨時総会を開催する方向で。

ところが臨時総会では、出席者から否定的な意見が続出。

意見が出尽くしたところで、理事長(議長)が採決を取ります。

理事長
理事長

議案に反対の方は、挙手してください!

(えっ、賛成者に挙手させるんじゃないの?)

すると出席者が全員手を挙げています。あれ?…全員?

理事長も挙手してる

意見交換した結果、その場で自分の意見も変わってしまう。
それ自体は仕方ないこと。人間だもの。

でも、理事長の立場で反対票を投じることは、許されるのでしょうか?

理事長は議案に反対できる?

理事会では多数決で賛成に決まったけど、理事長個人の意見は反対というケースも、中にはあるでしょう。

総会に議案が提出されると、役員の誰が賛成・反対なのか、一般の組合員には分かりません。
議長(理事長)宛に委任状を提出した人も、理事長が実は反対派とは夢にも思わないでしょう。

※ここでは、議長と理事長は同一人物として考えます
  標準管理規約 第42条(総会)
   
5項 総会の議長は、理事長が務める。

理事長は、総会を招集しているわけですから「議案を承認してください」の立ち位置のはずです。

内心はともかく、少なくとも外観上は「賛成」に見えます。

もし理事長が反対するとなると、2つの問題点が考えられます。

  1. 理事長が「一組合員の立場」で反対できるか?
  2. 理事長あての「委任状」をどう取り扱うか?

1.理事長が「一組合員の立場」で反対できるか?

理事長(議長)
理事長(議長)

一組合員として、自分の権利を行使したい!
だから総会では反対します!

はたして、この意見は通るのでしょうか?

総会は、理事長が、議案の承認を求めて招集しています。
反対票を投じるのは矛盾していると言わざるを得ません。

理事長は、理事会の決議に拘束されます。
ここでいう理事会の決議とは「議案の承認・可決を目指して総会を開催する」という決議。
だから、個人的な意見は別にして、賛成票を投じるべきです。

どうしても反対する場合は、総会を招集する前に役員を辞任するべきでしょう。
こう考えてみると、理事長というのはなかなか辛い立場です。

参考:Wendy-Net 管理に関するFAQ総会決議にて理事長は理事会の決議に拘束されるのか 

また、マンション管理業協会の見解を紹介しているブログもありますのでご参考に。

  • 昔の規約には「可否同数の場合は議長が決める」という条文がありました。
     ・基本的に、議長に投票権は無い
     ・賛成と反対が同じ数だった場合に、初めて議長は投票できる
    ということは、可否同数の場合は、議長は賛成でも反対でも投票が出来る、という条文ですね。
    最新の標準管理規約ではこの条文がないので、議長にも最初から投票権があります。

2.理事長あての「委任状」をどう取り扱うのか?

委任状の真意は?

委任状は受任者(委任した相手)の判断に委ねるということです。

つまり、受任者が賛成するなら賛成、反対するなら反対。
かんたんに言えば「あなたにお任せ!」ですね。

でも、委任状を出すということは、全て「お任せ」とみなされるのでしょうか?

それは、委任状の書き方で判断できます。

 ① 賛否がハッキリしていない(理事長に委任しているだけ)
 ② 賛否がハッキリしている (意見が明記されている)

①賛否がハッキリしていない委任状

委任状①
委任状①

理事長に一任!お任せします!

コメントも何も書かずに委任だけすれば、「議案に賛成」として取り扱うべきです。
なぜなら「議案の提案者である理事長に委任しているなら、賛成のはずだ」と解釈できるからです。
これは「理事長は賛成」という信義則が前提になっていますね。

②賛否がハッキリしている委任状

委任状②
委任状②

理事長に委任します。
でも、第2号議案だけ同意できないから反対です(積極的な意思表明)

意思表示がハッキリしている委任状の場合は、委任者の意思表示が優先されます。
この場合は例外的に、理事長の「賛成票」と委任者の「反対票」を、別々にカウントすることが許されます

委任状の取り扱い方のまとめ

① 賛否がハッキリしていない委任状(理事長に委任のみ)
受任者(理事長)の判断に委ねている。
理事長は、理事会の決議に拘束されるので「賛成」の立場である。
よって全ての委任状を賛成票に投じるべき

② 賛否がハッキリしている委任状(賛否の意見が明記)
委任者の意思表示が優先される。
よって委任者の賛成・反対の意思に沿って、分けて投じるべき

委任状の分割?

理事長(議長)
理事長(議長)

理事長は反対できない?
じゃあ間を取って委任状の半分は賛成票、半分は反対票に投じます!

折衷案と言う名で結論を濁して委任状を賛否半分に割って行使することが認められるのでしょうか。

この件について、マンション管理士試験で過去問で取り上げられたことがあります。

<<参考>>マンション管理士試験 過去問(平成23年 問29)
理事会の決議を経て通常総会に提出された議案について、理事長と監事が反対している場合において、理事長には受任者を理事長とした委任状が、監事には受任者を監事とした委任状が提出されているときの取扱いに関する次の記述のうち標準管理規約及び民法の規定によれば、適切でないものはどれか。

 1 理事長は、役員を辞任すれば、自分の1票を反対票として使うことができる。
 2 監事は、自分の1票と委任状を反対票として使うことができる。
 3 理事長は、自分の1票と委任状を賛成票として使わなければならない。
 4 監事は、委任状を総会出席者の賛否の比率に応じて分けて使うことができる。

【解答】
 1…役員を辞めれば理事会決議に拘束されないので
 2…監事は理事会の決議に拘束されないので
 3…理事長は賛成の立場でなければならないから
 4…委任状の性質は、受任者(ここでは監事)の賛成・反対の判断に委ねるもの。監事の1票を「賛否を一定の比率で分割する」ことは出来ない。したがって委任状の賛否を比率に応じて分割することは出来ないから×

やはり、委任者の意思を尊重することが重視される、という当然と言えば当然の結論ですね。

この問題については、ブログ 平柳塾で解説されています。ちょっと長いですが、詳しいので興味のある方はどうぞ。

書き始めてみると想像以上に深いテーマで、複雑になり過ぎないようまとめました。
直接的な条文や規約に明記されておらず、様々な見解もあるので、根拠を探したり整理するのがとても難しかったです。

今回の参考文献はこちら↓

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