役員報酬に関する考え方はひとそれぞれ。
正解が見つからず、議論が平行線をたどることが多いです。
「報酬」「手当」など名称も様々ですが、役員を務めることへの対価として管理費を財源に支払われることは同じなので、以下、便宜上「報酬」で統一しておきます。
今日もどこかで繰り返される議論
報酬を払ってる理事会なんて聞いたことないですよ!
これからいろいろ修繕費もかかるのに、必要ないと思います。
役員はボランティアが当たり前だと思ってたので、お金がもらえてビックリしました。
他のマンションではどうしてるんでしょう?
時間を犠牲にして皆のために働くんだから、報酬は当然でしょう。
ボランティア = 無償奉仕じゃないですよ。
「報酬(お小遣い)がもらえるよ」と言えたら、次に役員になる人を誘いやすい…
賛成も反対も、出てくる意見はどこのマンションでも同じだよなあ
標準管理規約では、経費だけではなく報酬も受け取ることが「できる」と定められています。
だから「報酬を受け取ること自体は変なことではない」という前提で議論をスタートして「じゃあウチのマンションに必要か?不要か?」を話し合うべきです。
「〇〇が当たり前」という決めつけがあると、相手を否定する意見でぶつかるので、対立が深まるばかりで話が噛み合いません
第37条2項(役員の誠実義務等)
役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。
「正解」はなくても「統計データ」がある
受け取ることが「できる」なので、それぞれのマンションで自由に決めればいいわけです。
でも他のマンションはどうしているの?と気にする方が多いです。
色んなマンションの事例をたくさん扱っているのが「管理会社の強み」というものですが、まずは国土交通省が行った調査を参考にしてみましょう。
「報酬の有無の割合」や、「報酬額の分布」もあります。
回答数1670件のデータですから、平均値としては十分でしょう。
支払っている | 支払っていない |
24.2% | 73.3% |
※「支払っている」には理事長だけに払う場合も含む
国土交通省 平成30年度マンション総合調査 ※PDFで開くので注意。59枚目(95ページ目)から。
支払っていないマンションの方が圧倒的に多いんですね。
はい。でも内訳を分析してみると、ある傾向がハッキリと出ていますよ!
- 築年数が古くなるほど「支払っている」割合が高い
- 平成7年(調査時で築23年)を境に、傾向が変化する
- 平成6年以前のマンションは30%以上が支払っていて、築年数と共にその割合はどんどん増加する
- 昭和49年以前になると、支払っている方が多数派に逆転します。
- 戸数が大きいほど「支払っている」割合が高い
- 200戸を超えると支払っている割合は40%以上まで増加します。
- 逆に50戸未満では20%を切ります。
このデータが示すのは「年数とともに役員のなり手が不足して報酬を払う」「戸数が多いと役員の負担も大きい」「戸数が多いと予算規模的に報酬を出しやすい」などの背景があるように思います。
日ごろの業務で感じている印象に近い、納得のデータです。
報酬制度いろいろ
とは言っても、統計のデータでは個別の事情まで分かりません。
よそはよそ、自分たち中心に考えてみましょう。
「報酬にはどんな支払い方があるの?」という質問も多いので、ざっくりと3つに分類してご紹介します。
1.定額制
もっとも一般的な方法で、毎月決まった金額を支払います。
数ヶ月ごとや年1回のまとめ払い、前払い・後払いなど、やり方は色々です。
理事長、副理事長、会計担当理事、監事など、役職によって金額に差を付ける場合もあります。
途中で辞任するかもしれないし、後払いが妥当じゃないですか?
報酬の重みを感じて責任感を持ってもらうために、前払いするんだ!
いや、ほんと色んな考え方があるもんですね…
こればっかりは、どれが正しいとか言えないです
2.対価制
理事会に一度も出てこない人に、定額で払うのは変じゃない?
当然こういう意見もあるので、それに答える形で登場するのは対価制です。
対価制には2種類あります。
<2種類の対価制>
① 理事会の出席回数に応じて支払う
② 特別な作業をした場合に支払う
①は理事会に出席したら、一定額を役員に支払うもの。
②は役員に限らず、一般組合員も対象に支払うもの。
「特別な作業」に関して明確に定義するため「労務報酬規程」を定めている場合もあります。
道端に落ちてるゴミを拾ったとか、日常的なことは対象外です。
フェンスを塗装する、緑地一帯を草刈りする、植栽を剪定する、蛇口を交換するなど、本来なら専門業者に委託して費用が発生するものを代わりに行った場合に支払います。(それでも格安)
3.ミックス制
定額制と対価制を組み合わせます。
- 定額制部分・・・・全役員または一部の役職付き役員に支払う
- 対価制部分・・・・理事会の出席回数に応じて支払う
- その他・・・・・・通信費や交通費など必要経費
金額はどうやって決める?
総会の決議が必要ですから、管理組合の収支予算がマイナスになるようでは合意を得るのが難しいでしょう。
またどうして報酬制度が必要なのか、背景や事情の詳しい説明も必須です。
報酬の「金額設定」は、役員の人数・マンションの規模・会計の収支状況(黒字か赤字か)、各自の考え方によって全く異なります。
理事長を例に出せば、月に2千円~2万円くらいまで、かなり幅があります。
バラつきが大きすぎて、平均額を出しても全く参考になりません
試算してみよう
役員報酬の制度を決めたら、予算を確保するため年間の報酬額を試算してみましょう。
定額制 = 人数 × 単価 × 12か月
対価制 = 想定理事会数 × 出席者数 × 単価
予算額が「多すぎる」と感じたら、単価を調整して妥当と思える予算を探しましょう。
順番制が機能している管理組合は、報酬制が無い方が多いです。
裏を返せば、順番制が崩れたときに役員報酬制の議論が始まっています!
ぜひ「1年分まとめて後払い」「振り込み」を採用してください!
フロントが自腹で何万円も立て替えることがあるのです・・・
税金の問題
最後に、役員報酬が税金の対象になるのか?ということに触れておきます。
と言っても私自身も確固とした結論を持っておらず、質問されるとちょっと困ってしまうのです。
役員報酬は課税の対象になるんじゃない?
確かに、その可能性があります。
「労働の対価としての報酬」なら、管理組合が源泉徴収して納税する必要があります。
そのためには役員からマイナンバーを取得して管理しなきゃいけないし、非現実的ですよね。
役員報酬が税金の対象になるのか?という点について、色んな見解が飛び交っています。
ひとつの情報だけで「これが正解」と決めるつけるのは早いようですよ。
実際に税務署に問い合わせされたマンション管理士さんのブログが面白いのですが、結論は所轄の税務署に確認してみないと分からない、だそうです。
その他にも弁護士さんのブログも大変興味深い考え方が掛かれていますが、やっぱり結論は税務署に問い合わせしてくださいと書いています(笑)
これまでの実務経験上、役員報酬が税金の対象になったことがなく、源泉徴収が必要と言われてもいまいちピンと来ないのが本音です…
面倒でも、税務署に問い合わせるしかなさそうですね。
税金の問題は、知識として抑えておいた方がよいですね。
「マンションの役員報酬は対象外」だと、制度として明確に打ち出してほしいものです。
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