「共用部分に勝手に穴を開けたり、改造したりしてはいけない」というのは常識になっていると思います。
しかし自室の壁、玄関ドアや窓、ベランダなど「共用部分なのに共用部分と認識せず」、つまり自分のものだと勘違いして改造してしまう事案は稀に発生します。
そういう事案が起きた場合には、管理組合や区分所有者から原状回復を請求される可能性があり、これに関する判例があります。
この判例では、地裁と高裁が真逆の結論を出しているのが面白いのでご紹介します。
高松高等裁判所 平成22年5月28日判決
事案
隣接する2部屋の隔壁の一部を撤去して、1室につなげてした。更に、廊下に面した窓・壁を改造して引き戸の玄関を新設した。
築40年以上のマンションで、たまにこういう事例を目にします。
何十年も前に行われた改造で、既得権として定着して問題視もされていませんが…
しかしこの事案は平成17年に改造したものということで、割と最近なのが驚きです。
そしてこれを問題視したのは、管理組合ではなく一部の区分所有者であり、同じフロアですらありません。管理組合に対して、原状回復請求をするように要求します。
その結果、廊下は壁の状態に戻したものの、室内の開口部分はベニヤで塞いだだけ。
納得しない区分所有が、直接、原状回復を求めて訴訟を提起しました。
「管理組合は頼りにならない」と見限ったのでしょうね…
1審:地裁判決
原告である区分所有者の敗訴です。請求が棄却された理由をざっくり言うと
共用部分なのは確かだけど、他の区分所有者に関係が無い場所ですよね。他の人が普段使う予定もないし、何か影響を与えたり、変化したことがありますか?
2審:高裁判決
1審の判決を覆して、原告側の請求を認めました。
マンションの資産価値は、共用部を含めて総合的に判断します。
他の区分所有者が使わないからと言って、改造するのはダメですよ。
資産価値を侵害する違法行為です!
3つの論点
- 改造したのは共用部分に当たるのか…共用部分に当たる
- 原状回復を請求することは保存行為に当たるのか…保存行為に当たる
- 保存行為のための訴訟に区分所有法57条2項の総会決議が必要か…必要ない
上記の1~3に関して、地裁も高裁も同じ判断をしています。
それなら原告である区分所有者の請求を認めるのが自然な流れですが、そこに「共用部であっても、場所によって他の区分所有者の権利を妨害しているとは言えない」という基準をくっつけて、棄却してしまったんですね。
「場所によって妨害とは言えない」という曖昧な判断基準による判決は、やはり問題があると思います。
解説書にも「第1審の判断は唐突の感を否めない」と批判されています
結 論
共用部を勝手に改造されてしまった場合は、総会決議に基づいて原状回復請求(区分所有法第57条2項に基づく)してもいいし、各区分所有者が保存行為として原状回復請求(固有の所有権に基づく)してもいいし、どちらでもいいということです。
実際に起こり得ること
エアコン取り付けのため、新たに壁にコア抜きしたいというのは時々ある相談です。
管理組合の許可なくそのような工事を行うと、管理組合から、または区分所有者から原状回復請求される可能性がありますので、必ず事前に管理組合に相談しましょう。
管理規約によっては、理事会または総会の決議が必要になるため、すぐに承認が下りない場合もあるので注意してください。
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