マンションの寿命は何年?

長期修繕計画や大規模修繕工事の議論になると「マンションの寿命」が話題に上ることがあります。

住民さん
住民さん

そういえば、このマンションって何年くらいもつんですかね?

住民さん
住民さん

マンションの寿命?60年だろ!

構造そのものは、きちんと手入れしていれば100年でも大丈夫ですよ。

「60年」の数字はどこからきた?

なぜか多くの人から「60年」という言葉を聞きます。
鉄筋コンクリート住宅の法定耐用年数の「47年」は別として、「60年」の根拠は何でしょうか?

それは、コンクリートの寿命マンションの寿命を混同した数字が独り歩きしたのではないかと思います。

コンクリートの寿命を60年と計算するのは、次の2つの数値によるものです。

①建築基準法「鉄筋かぶり厚さ」

コンクリートの中には鉄筋が入っていて、コンクリートの表面から鉄筋までの厚さは30ミリ以上とされています。

建築基準法施行令第79条1項(鉄筋のかぶり厚さ)
鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さは、耐力壁以外の壁又は床にあつては二センチメートル以上、耐力壁、柱又ははりにあつては三センチメートル以上、直接土に接する壁、柱、床若しくははり又は布基礎の立上り部分にあつては四センチメートル以上、基礎(布基礎の立上り部分を除く。)にあつては捨コンクリートの部分を除いて六センチメートル以上としなければならない。

②鉄筋コンクリート「中性化スピード」

次に、コンクリートは年数と共に表面から「中性化」が徐々に進行していきます。

中性化が鉄筋まで到達すると、鉄筋がサビて膨張し、コンクリートが大きくひび割れ、剥落したり、急激に鉄筋の強度が下がってしまいます。

この「中性化」は1年に約0.5ミリのスピードで進行すると言われます。

鉄筋腐食はコンクリート剥落に直結
タイルや塗装などの仕上げが無い打ちっぱなしコンクリートの場合、中性化のスピードが1年間に0.5ミリ程度です。
通常は打ちっぱなしに見えても、撥水剤等が塗布されています

①と②から計算すると

「鉄筋かぶり厚さ:30ミリ」と「中性化スピード:0.5ミリ/年」から計算すると、鉄筋まで中性化が進行する年数は

 30ミリ ÷ 0.5ミリ/年 = 60年

どうやら、これがマンションの寿命がの根拠として広まったようです。

住民さん
住民さん

60年でコンクリートの強度が無くなる…?

いいえ、マンションのコンクリートの表面は、タイルや塗装で保護されています。
また環境や施工品質など様々な要素が関係するので、計算はあくまで計算です!

しかしタイルや塗装がひび割れて剥がれると、その部分は何も保護されていない状態になるから、急速に中性化が進行します。

だからそれを防ぐため、大規模修繕工事で補修したり、中性化したコンクリートをアルカリ性に回復させたり、鉄筋を防錆処理したり、躯体を延命させる処置を行います。

寿命は一律で決められない

きちんと大規模修繕工事を行っていれば、コンクリートの寿命が60年で尽きるはずありません。

ですから建物の寿命も、構造が存続する意味だけなら60年どころか100年以上もつでしょう。

構造は存続していても、むしろそれ以外の劣化により寿命を迎える、つまり建て替えなくてはならない事態に陥る可能性があるので、深刻な問題として向き合わなければなりません。

その「問題」の例は後述しますが、各マンションによって問題が何なのかバラバラなので、一概にマンションの寿命が何年だと決められません。

建物の「3つの劣化」の分類

建物の劣化の種類は大きく3つに分類されます。

構造に問題が無くても、入居者や世間のニーズに応えられず時代遅れのマンションになって、住むのが不便・誰も住みたがらないという、市場価値や利用価値が”相対的に”下がるという劣化も含まれます。

3つの劣化内 容事 例
物理的劣化・建物自体の老朽化ひびわれ、漏水、中性化、配管腐食など
社会的・機能的劣化・設備の時代遅れ
・法律への不適合
インターネット、インターホン、バリアフリーなど
経済的劣化・市場価値の下落販売価格下落、資産価値低下、修繕・維持費用の増加

※「物理的劣化」「社会的劣化」「機能的劣化」の3つに分類していることもありますが、内容はそれほど変わりません

大きな劣化問題 ~ 設備の劣化

まだまだ市場に出れば売買も成立するし、しっかり外壁の大規模修繕工事を行っているマンション。

それでも、実は建物内では設備の限界が近づいていて、更新するには多額の費用が掛かり資金計画が破綻している、交換工事が長期間にわたるため生活に支障が出るという問題を秘めているかもしれません。

1.エレベーターの入れ替え

1回目のリニューアル工事は25年~35年くらいに行われます。

この時は主要な部品を交換し、かごやレールなど流用する「制御リニューアル」という手法が主流です。
せいぜい1~2週間の停止ですし、費用も1台あたり数百万円で収まり、長期修繕計画にも予算計上されているでしょう。

ところが2回目以降のリニューアルになると、ほぼ丸ごと交換が必要になる場合があり、費用も1台あたり1千万~2千万円、工事のため1ヶ月以上停止することも。

エレベーターが2台以上あれば、交互に作業するので長期間止まっても大丈夫です。

でも1台しかないなら、階段の生活を1ヶ月以上、強いられることになります。

2回目のリニューアルとなると築50年を超えているでしょうから、入居者の中で高齢者・車いす・介護の割合も格段に増えているので、エレベーターが長期間止まるのは死活問題です

住民さん
住民さん

仮住まいに引っ越す?

引越しや家賃は誰が負担する?
出て・戻って、2度の引越しはとても負担が大きい…

工期をなるべく短縮したり、階段に仮設リフトを設置したり、エレベーター会社も知恵を絞って提案してくれますが、かなり難しい対策になります。

2.コンクリートに埋設された排水設備

給水管と排水管では、圧倒的に排水管の方が交換が難しいです。

なぜなら、古い建物では排水管(白ガス管)が床のコンクリートに埋め込まれている場合があるのです。

白ガス管と聞くと「ガスの管?」と思われるかもしれませんが、ひと昔前に排水管で使われていた鋼管を「白ガス管」と呼びます。もちろんサビます

白ガス管の問題点は、腐食して漏水したり、サビで閉塞して詰まったり、生活に重大な支障をきたすことです。

排水管を交換するときは原則として同じ位置に

排水管が床に埋設されているなら、コンクリートを解体しなければ交換できません。

これが給水管なら古い配管はそのままに、別ルートで新設する余地があるのですが…

排水は勾配で自然に流すため、高さと距離に制約があり、別ルートの配管はまず無理です。

作業中は部屋を使えない

工事は1日じゃ絶対に終わりませんし、何よりコンクリートを解体する音・振動・粉じんはすさまじいです。同じ部屋ではとてもじゃなく生活出来ません。

さらに工事する部屋だけでなく、上下左右はもちろん、建物全体に音が響きます。

1部屋あたり4~5日はかかるでしょうから、規模によってマンション全体の工事期間は数ヶ月に及ぶこともあり得ます。

費用が高額

室内の排水管を交換する場合、その半分くらいを内装工事、つまり壁紙やフローリングを張り替える費用が占めることも珍しくありません。

配管の交換、内装の解体復旧、さらに床コンクリートの解体・復旧費用が加わるので、通常の工事費よりずっと高額になります。

費用負担の配分

それから、内装復旧費用を誰が負担する?という問題も起こります。

内装材が一般的な素材か高級材を使っているかで、内装復旧費用に差が生じます。

これを工事の一環として修繕積立金で支払うのか。それとも個人にも負担してもらうか。

修繕積立金を取り崩すとなると「高級素材を交換して多額の費用をかけるなんて不公平だ」という考えもありますし、反対に「管理組合の事業で排水管を交換するのだから、個人の持ち出しは納得できない」という意見もあります。

これらの問題をひとつひとつ話し合いで乗り越えて、計画を完遂したマンションもありますから、決して不可能ではありません

3.電気設備の需要と供給バランス

入居者の電気の需要が増えることによって、室内の設備にとどまらず共用部の配線の許容量が足りない(パンクする)という問題が起こります。

IHクッキングヒーター・エアコンなど消費電力が大きい設備や、(昔より減ったものの)オール電化の要望もあります。

契約アンペアは入居者と電力会社の関係といえど、共用部の配線を使って電気が供給されるため、自由に契約アンペアを増やすのは危険なことですから、一定の制約はやむを得ません。

しかし電気の容量アップ(配線の入れ替えなど)は通常の長期修繕計画に入っておらず、入居者には今の設備の範囲で我慢していただくしかありません。

もう一つの問題 ~ 耐震強度不足

建築確認日(竣工日ではありません)が1981(昭和56)年6月1日より前の建物は、旧耐震設計基準が適用されています。

耐震基準……震度5強程度の地震に耐えられる
耐震基準……震度6以上の地震に耐えられる

最低限の基準です。震度5強以上で必ず倒壊するわけではありません。
そして、地震に対する建物の強度を調べるのが耐震診断です。

耐震診断は、基本的に旧耐震基準で建てられたマンションが対象です。
(新耐震基準のマンションなら震度6以上の強度が約束されているので)

耐震診断はゴールではありません。

その先に耐震補強工事が必要になる可能性も想定しなければなりません!

耐震診断の結果、もし建物に強度の不足が判明すれば、次は耐震補強工事に進みます。

最初から耐震補強工事の可能性を考えていないと、せっかくの耐震診断も意味がありません。

といっても耐震補強工事は簡単なものではなく、ざっくり2つの障壁があります。

1.資金の問題

耐震診断や耐震補強工事の費用は、国や自治体の補助金制度があるので活用できると思いますが、全額補助ではないため修繕積立金を取り崩します

耐震診断はあらかじめ予定することは出来ますが、耐震補強工事の予算を長期修繕計画に最初から計上しているマンションは無いでしょう。

なぜなら耐震補強工事は、耐震診断の結果が出ないと「そもそも補強工事が必要かどうか」「いくらかかるか」「補助金がいくら出るか」が分からないので、予算を立てて、前もって積み立てるのは難しいですね

2.外観が大きく変わる

耐震補強には様々な工法があり、「耐震ブレース」という梁を追加する工法は外から見て分かるし、学校など公共施設でよく見かけるのでご存知だと思います(下の写真)。

マンションの場合は、外観だけではなくてベランダからの眺望が大きく変わります

他に梁・柱・壁を補強する工法なども、住民の生活に影響が出る可能性があります。

外観や眺望が大きく変わる

「建て替え」か「再生」か?

役員
役員

もし耐震強度不足が指摘されたら…資産価値が低下するのでは?
診断してしまうと後戻り出来なくなる気がして、躊躇してしまう

耐震補強工事の費用や生活への影響の心配が大きくて、耐震診断に踏み切れない管理組合をいくつも見たことがあります。

築40~50年位のマンションでは建て替えの話題が(雑談程度でも)出ているので「いっそ建て替えた方がいいんじゃないか?」という方向に進みます。

しかし建て替えといっても、時間・お金・業者選び・手続きの煩雑さ・法規制・住民対応など課題の多さは、上で挙げた設備の更新や耐震診断・耐震補強の比ではありません。

耐震診断の結果、建物に「ダメ」を突き付けられるのが心配なのはもっともです。
しかし、その現実から目を背けることでマンションを再生する可能性捨ててしまうのが、もったいないと思います。

分かれ道で迷う人のイラスト(男性)
耐震診断が最初の分岐点

最後に

マンションの建て替え実例によれば、築30~50年の建て替えも非常に目立ちます。
ずいぶん早いですよね。

建て替えの理由は、建物本体の劣化に加えて、給排水管を中心とした「設備関係の不具合」「耐震強度不足」が理由に挙げられています。

最近のマンションは設備を交換しやすい設計になっていますから、最初から建て替えありきではなく、再生やリニューアルによる価値向上で、長寿命化の選択肢も選びやすいはずです。

既に建て替えが話題になっているマンションも、建て替えを考え始めたスタートは何か?を振り返ってみて、その問題を克服する方法を考えるプロセスも大事だと思います。

困難かもしれませんが、再生という選択肢も捨てないでほしいと思います!

<<参考サイト>>
マンション再生協議会
分譲マンションの建て替えは少ない!理由と建て替えになった時の対策 ~すまいステップ
耐震診断について ~株式会社都市設計連合

耐震改修工事 ~大京穴吹建設
マンションの耐震工事費用はいくらかかるか? ~株式会社耐震設計
マンションの耐震改修はどうやって行われる? 事例見学会で確認した ~suumoジャーナル

「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」報告書 取りまとめ後の取組紹介※PDF ~国土交通省

<<参考書籍>>

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