ベランダは避難経路、物をたくさん置いて塞いではいけない、勝手に改造してはいけないとか、個人の所有物ではなく「共用部分」「専用使用権」ということは、わりと浸透していると思います。
この専用使用権が与えられた共用部分、「専用使用部分」は解釈が難しく、規約を読んだだけでは分からないこともたくさんあります。
住民、理事会の役員、管理会社のフロントでさえ誤解している場合が多々あります。
何が専用使用部分なのか、詳しくは管理規約に明記されている…と言いたいところですが、実際には全ての専用使用部分が網羅されてず、疑義を生じやすいという問題があります。
専用使用部分の責任区分をざっくり分けると
権利・責任 | 責任者 | 内 容 |
---|---|---|
所有権 | 管理組合 | 全体の共有物 |
専用使用権 | 所有者 | 所有者(入居者)が独占して使える |
通常の管理 | 所有者 | 所有者が通常の使用に伴う保存行為をする責任がある |
一斉交換 | 管理組合 | 計画的な修繕や一斉交換は管理組合が実施する |
例外として大規模修繕などの計画修繕や一斉交換のときは、管理組合が費用を負担する。
所有者は管理組合だけど、利用は入居者、日常的なメンテナンスも入居者。
「自分専用で使えるし、維持管理も自費だど、本当は共用部分を借りているだけなので好き勝手に交換は出来ない」とも言えます。
「通常の使用に伴う管理」って何のこと?
「通常の使用に伴う管理」とは、具体的に何を指すのでしょう?
掃除したり、部分的な修理や交換
…ということは、ほぼ自分の所有物と同じように管理しなければなりません。
それなのに共用部分だから、色や形を勝手に変えることは出来ません。
基本は現状維持です。
判断を間違いやすい修理と交換
専用使用部分を挙げればキリが無いので、窓ガラスの事例で考えてみます。
お部屋の窓ガラスは、網入りガラスになっていることがあります。
ガラスの中にスチールのワイヤーが編み込まれていて、割れても飛び散らないようになっています。
このワイヤーが、結露などがしみ込んでサビて膨張したり、太陽の熱で膨張・収縮したり、ガラスにひび割れを起こすことがあります。
寒冷地では二重窓が一般的に採用されます。
規約に「外気に面する窓ガラス、窓枠、網戸は専有部分に含まれない」など書いています。
つまり内窓は専有部分、外窓は共用部分(専用使用部分)に区別されます。
ところで、先ほどのサビや膨張によるひび割れは入居者の責任じゃありません。
もしこのようなひび割れが、仮に入居して5年も経たずに起きてしまったら?費用の負担は?
年数も経ってないし、自分の責任じゃないですよね。
管理組合に交換をお願いすると思いますよ。
結論はお部屋の所有者の負担です。
ここに違和感を覚える人が多くて判断を間違ってしまいがちですが、標準管理規約コメントにも「バルコニーの清掃や窓ガラスが割れた時の入れ替え等は専用使用権を有する者が行う」という主旨の記載があります。
また、弁護士による具体的な回答もあります。
なぜ管理会社も間違うの?
勉強不足と言われればそれもありますが、もうひとつ前例踏襲の可能性があります。
管理組合の修繕履歴・支出履歴をチェックしたときに「〇〇〇号室 窓ガラス交換」を見つければ、「このマンションは管理組合の負担で窓ガラス交換する慣習がある」と判断します。
(その慣習に倣うのが正しいやり方、というわけではありません)
これを覆そうとするなら同時に「過去に行ってしまった工事費用の精算をしなければならない」という問題が生じるので、絶対に躊躇します。
昔は管理組合で直してましたけど、今日から個人負担です!と言われて、納得する人もなかなかいないでしょう。
間違った判断と知りながらも、前例踏襲で処理しているマンションは結構あるんじゃないでしょうか。
私も、玄関ドアの修理費用を管理組合が負担している物件があります。
変だと思いながらも、実施済みの件数が多すぎるし、所有者も変わっているし、軌道修正が出来ません。
「通常の使用」はどこまでの範囲?
使っていないガラスが割れただけなのに「通常の使用」ってどういうこと?
使用していないよ?
使っていて壊れる…たとえば窓の戸車が摩耗するとか、錠がかからなくなるとか、集合ポストのダイヤル錠が回らないとか、それなら分かりやすいので比較的、自己負担も納得しやすいです。
しかし「使っている・いないに関わらず、通常の使用に含まれる」のです。
ただそこに存在するだけで、使っていることになります。
自然の経年劣化も使用の範囲に入ります。
去年買って入居したばかりなのに、経年劣化の責任があると言われても・・・
途中で購入して入居された方は、特に納得できないと思いますが…
売買では、前所有者の責任も引き継ぎます。
管理組合で修理する条件が「2つ」
① 計画修繕で一斉修理または一斉交換する場合
例えば、大規模修繕で足場をかけてひび割れしているガラスを全部交換する場合は、管理組合負担で実施することが出来ます。
他にも玄関ドアの断熱性・遮音性を高めるために一斉交換するのも、計画修繕として管理組合が実施できます。
② 総会で承認を得る場合
大規模修繕ではなくても、個別の修理として管理組合が実施できるとした判例があります。
通常の使用に伴う修繕であっても、総会決議があれば、管理組合の負担にすることができるとしました。
ただしこの判例で示されている総会決議では、具体的な工事の内容を記載することが必要です。
つまり「〇〇〇号室のガラスがワイヤーの膨張によりひび割れを起こしているため、**万円の修理費を管理費から支出すること」のように、具体的な承認を得なければなりません。
つまり理事会の決議はダメだし、「今後起きうるガラスの破損はすべて管理組合で交換する」のような、包括的な決議も認められないことになります。
これは実務的に考えると結構ハードルが高いというか、現実的ではないというか…。
すぐに直せなかったり、機動的じゃないですよね。
総会まで待ってくれ、ということですから。
正直言うと、私も判断を間違っていました…
台風で割れた場合は?
自然の劣化でもなく、自然災害である台風でガラスが割れた場合はどうでしょうか。
これも通常の使用とみなされるのでしょうか。
今までの理屈ではただそこにあるだけで所有者の責任ということなら、個人負担になりそうです。
しかし災害を通常の使用とみなすのかどうか、弁護士の間でも見解が分かれているようです。
台風で割れたガラスなら、保険を使えるからどっちでも一緒でしょ
保険を使うにしても、誰の保険を使うか?
管理組合の保険?入居者の保険?
つまり、修理の責任の所在がどこにあるか、という問題です。
実務的な処理として
台風で割れたガラスを放置することは出来ませんし、多数の被害が出ることもあります。
安全を確保して被害の拡大を防ぐためにも、交換を優先するべきです。
このような場合には費用の負担の話は後にして、管理組合で業者を手配するのが妥当でしょう。
ただし判例から考えて、事後であっても総会で具体的な報告をして承認を取るべきですね。
今後どうしたらいいか(私見)
今までのことは関係ありません。今日から個人負担です。
過去に管理組合の費用で直したのは間違いでした。
各部屋の所有者は、管理組合に返金してください。
これが原則なので、正しい対応かもしれません。
でも歴史ある建物になればなるほど、履歴を調べるのも大変だし、所有者も入れ替わっているし、このような処理は難しいでしょう。
現実的な解決として、一斉交換を行うそのときまで、前例を踏襲するしかないのではないでしょうか。
ただし総会で、きちんと具体的な修理内容を報告して承認を得る。
これは今からだって出来ます。
そして、一斉交換を実施したタイミングで、これまでの前例を改めて正しいルールを周知徹底し、再スタートするのが良いのではないでしょうか。
過去を変えることは難しいです。
それを責めるより同じ過ちを繰り返さず、今できる最善の手を考えて、是正に向けた一歩を踏み出すことの方が大切だと思います。
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